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Fresh|Delicious/makiray 「なごみ家へようこそ!」 フレッシュプリキュアの四人がデリシャスパーティプリキュアの三人に会いに来た。場所はゆいの家で、ゆい達が手料理をふるまうことになった。おいしいものが揃ったおいしーなタウンに来て、町には出ずに家庭料理を楽しむ、というのはある意味では最高の贅沢である。デザートにはもちろん、ラブたちが持ってきたカオルちゃんのドーナツ。 「まずは、サラダからどうぞ」 わくわくして待っている四人の前に目にも鮮やかなサラダのボウルが置かれた。美希は目を輝かせたが、隣で「ひっ」と息をのむ音が聞こえた。 ラブがスティックサラダのニンジンを凝視している。 せつなはサラダの上に乗っているスライスされたピーマンから目を背けている。 察した祈里が苦笑した。ふたりはまだニンジン嫌いとピーマン嫌いを完全に克服したわけではないようだった。 「ゆいちゃん…」 ラブがおそるおそる挙手する。 「なぁに?」 「このニンジンなんだけどさ」 「新鮮でおいしいよ」 「熱を加えたほうがいいと思うんだ」 ゆいとらんが顔を見合わせる。 「熱を加えると栄養分が壊れて――」 ここねの発言を遮るラブ。 「食事ってそういうものじゃないと思う」 「え?」 「目で楽しむとか、みんなで一緒に食べるからもっとおいしいとか、そういうものじゃないかな。 理屈をこねまわして計算づくで食べる、っていうのはどうかと思う」 「そう…かしら」 「このピーマンもそうよ」 せつなが突然、声を上げた。 「こういう、スライスして上に乗せただけ、っていう添え物みたいな扱いはピーマンに対して失礼だと思う」 「はにゃ?」 「しっかり味付けをして、たくさんの具材と一緒に加熱されて、それでもまぎれてしまったりせずに、少量でもしっかりと主張する。それがピーマンのすごいところ。それを活かすべきよ」 ゆいが、おぉ、とつぶやいた。 「ふたりの、ニンジンとピーマンに対する愛情がひしひしと伝わってくるわ」 ここねも感銘を受けているようだった。 「よっしゃぁっ!」 らんが立ち上がる。 「ラブちゃんのニンジン愛、せつなちゃんのピーマン愛、この華満らんらんがしかと受け止めた! ゆいぴょん、中華鍋あるよね?!」 「手伝うよ!」 「おぅ!」 台所に取って返す二人。ザクザクザク、と材料を切り、熱した中華鍋にジャッと油を注ぎ込み、ガランガランと鍋を振る。 「お待たせしました!」 大皿がドンと置かれる。 「ぱんだ軒特製酢豚、フレッシュデリシャススペシャル!」 「これ、酢豚…?」 「ふたりの大好きなニンジンとピーマン、大盛りマシマシだよっ!」 オレンジと緑が皿を覆っている。肉が見えない。 ラブが呆然とし、せつなが青ざめていた。 ごく少量を、加熱して苦味を飛ばし、濃い味付けで本来の風味を隠せば、食べられないことはない…だったのだろうが。美希が自分の眉間をマッサージする。 「いただきます…」 ラブとせつなはあきらめて箸を取った。 「ねぇ、らんちゃん」 祈里が大皿を視き込む。 「酢豚にパイン入れる派?」 第二ラウンドのゴングが鳴った。
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せつな「ねぇラブ、本を読んでてわからなかったんだけど、キスってなあに?」 美・祈「!!」 ラブ「あぁ~、それなら友達同士でするあいさつだよ。 簡単だから教えてあげる!口と口をくっつけるだけなんだよ」 せつな「こうかしら?」 ちゅ ラブ「クッハー!」 美希「せつな!アタシともあいさつして!」 祈里「私にも!」 せつな「わかったわ」 ちゅ ちゅ 美・祈「ムフフ…」 ラブ「みんなで幸せゲットだね!」
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せつなとあたしはおでこをくっつけ合って、少し、笑った。 何て事しちゃったんだろう、と言う大きな後悔。大好きな人と 気持ちが通じあった、大きな喜び。 いろいろな思いが渦巻き、泣きたいような、笑いたいような不思議な気持ち。 「…ごめんね。」 もう一度、あたしは謝る。どんなに謝っても足りないのは分かってる。 でもそれしか言えないから。 「…うん。でも、もうこんな乱暴なのはやめてね。」 結構、辛かったんだから。と少し冗談めかして、せつなは含羞む。 「やだ、私…。」 「…わはー……。」 せつなは今更ながら自分のはしたない姿に気付いたように 服の前を掻き合わせ羞恥に耳まで真っ赤にしている。 パリッとしていたワンピースは見る影もなくくしゃくしゃで、 汗やその他諸々で汚れて、かなり悲惨な状態だ。 (わはー…、何かせつな、すんごいえっちぃんですけど。 いや、ひん剥いたのはあたしなんすけどね…。) 「どうしよう、これ。」 血の染みが付いたワンピースを摘まんで少し途方に暮れる。 買って貰ったばかりの服を汚してしまったのを気に病んでいるらしい。 「あー、だいじょぶだよ。これコットンだし。すぐに洗ってアイロン掛ければ!」 洗ったげるよ!貸して。と服を引っ張ろうとするラブに、 「あっ、やん!」 裾を押さえて抵抗する。 下、何も着てないんだから!と赤い顔で上目遣いに少し睨まれ ラブの顔も負けず劣らず赤くなる。 ついさっきまで、あーんな事やこーんな事をされてたのに 何を今更…と言う気がしなくもないが、どうやらそう言うものでもないらしい。 「…シャワー、浴びて来てもいいかな。」 そりゃそうだよね。恐らく身体中エライ事になってるんだから。 そりゃあ早くさっぱりしたいだろう。 「そだね!お湯、もう張ってあるから!ゆっくり入ってきなよ!」 そう言った途端、くしゅん!ラブがくしゃみをした。 考えなくてもラブも巻いていたバスタオルはとっくに落ちて、すっぽんぽんだ。 ある意味せつなより恥ずかしい。 クスリ、とせつなが笑い、 「じゃあ、一緒に入っちゃおうか?」 「!!ふぇ?!」 先に行くね。ぱさっ、とラブの頭に落ちてたバスタオルを掛けて、せつなは バスルームに向かった。 (一緒にって、一緒にって…?!) ラブは先ほどのせつなの言葉を反芻する。 『もう、こんな乱暴なのはやめてね。』 って事は、乱暴にしなきゃオッケー!って事すかね?! かぁっ!と全身が熱くなり、心臓が口から飛び出しそうにバックンバックン 脈打っている。 今こそ真の勝負の時!ラブの本能がそう告げていた。 大好きな人と(無理矢理ではあるが)体の関係を持ち、(順番が逆だが)気持ちを 確かめ合い、(普通はこれが最初だろうが)告白もした。 (これで二人は両想い!晴れてラブラブ恋人同士…!) のはず。 しかし、問題が一つ。 せつなは今回の事がラブが慣れない深刻な悩みに耽った挙げ句の暴走。 つまりは非日常、普通ならあり得ないイレギュラーな出来事と捉えて いないか、と言う事だ。 それは困る。大いに困る。トチ狂って暴挙に出てしまったが、 ラブとしては、ここまでやったからには付き合い始めの恋人らしく 日常的にあんなコトやこんなコト……できなきゃ意味がないのだ。 (それに、えっちは気持ち良くなきゃ! このままじゃ、えっちがトラウマになっちゃうかも!! そんなのせつなの為にも絶対良くない!!!) そのトラウマを植え付けたのは間違いなく自分なのだから 『責任取らなきゃ!』 ラブはいつものポジティブシンキングを取り戻しつつあった。 (ようし!!) ラブの体に闘志がみなぎる。 (待ってて!せつな!!女のヨロコビ、ゲットだよ!!!) 了
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⑧ 「かわいいわねー犬。ブッキーが羨ましい」 「せつな犬欲しいの?確かに癒されるけど」 「美希ちゃんも犬飼ってるよね」 「うん、家に帰ると不法侵入でしっぽ振って待ってるし、勝手に膝の上に乗ってくるし、寝る時布団に入って擦り寄ってくるし……」 「ええ、私の美希なのに!そんな羨ましい犬がいるの?」 「自覚症状がないんだけどね……せつな、お手」 「美希とならずっと手を握ってたいわ」 「私今度首輪プレゼントしてあげようかな」 ⑨ 「せつなー、ご飯できたって」 「わかった。ねぇ、ラブ」 「何?」 「私にこんなに優しくしてくれるのはどして?」 「嫌だった?」 「ううん、嬉しいの。私にはもったいないくらいで……」 「だってあたしにとってせつなはお姫様だから」 「そうなの?」 「うん」 「ありがとう。私にとってラブはお殿様よ」 「いや、位の話じゃなくて……」 ⑩ 「美希ちゃん、風邪大丈夫?ゼリーとか買ってきたよ」 「こほっ、熱がなかなか下がんなくて。ありがとうブッキー」 「せつなちゃん呼ばないの?」 「騒がしくなるからいい。あ、新発売のプリンもある。やった」 「薬も入ってるから」 「ありがとうー……え、これネギ?」 「知ってる?風邪の時ネギをお尻に刺すと効果あるんだよ」 「へ、へぇ~……ブッキー物知りぃ」 「私ね試してみ―― 「せつなああぁぁぁ、アカルンで今すぐ来てえぇぇ」 ⑪ 「面白いねこの番組」 「この滑舌問題勝負しようよ」 「ラブノリノリね。まぁいいけど」 「楽しそう」 「じゃああたしから。有料道路料金!よっしゃー。次美希たん」 「有料道路料金。余裕ね。じゃあ次せつな」 「有料道っりろ料金!……駄目?」 「ぎりぎりセーフかな」 「んじゃあブッキー」 「ゆうろうどうっりょろうきん!」 「アーーウト!ブッキー意外とこういうの苦手なんだぁ。あはは……はっ!殺気?」 (小声)「ラブ、ブッキー唇噛み締めてる……」 (小声)「よっぽど屈辱だったのかしら……」 「だ、誰よ!こんなことしようって言い出したの!!!」 「「お前だよ!」」 ⑫ 「そろそろ眠くなっちゃった」 「お客様用の布団持ってきたよー。皆何処に寝る?」 「ラブの部屋だしラブはベッドね。あたしは下でいいわ」 「じゃあ私も下で寝ようかな」 「えー、だぁめ!せつなはあたしの隣」 「あたしはどうでもいい」 「じゃあさこうしよ―――」 「うぅ、あたしの隣が美希たんなんて。しかもベッドじゃないし……」 「しょうがないでしょ!あたしとラブだとベッド狭いんだから」 「私はブッキーとなのね。よろしくねブッキー」 「やっぱりベッドはふかふかだね」 「ベッド組楽しそう……」 「こっちは結構寒いわよね……」 「なんか言った?」 「「ノープロブレ厶です長官!」」 ⑬ 「美希何やってるの?」 「ストレッチ。体の線とか大事だからね」 「私が手伝うことある?」 「ない」 「じゃあ雑誌でも読もうかしら」 「一緒にやる気はないんだ。確かにせつなは羨ましいぐらいバランスのとれた体型よね。よっと……」 「美希柔らかーい。あ!……………」 「何?」 「つ、続けて!な、何でもないから」 「何で慌ててるのよ」 「慌ててないわ。美希が前屈した時シャツの間からブラなんて見えてないし!」 「馬鹿?」 ⑭ 「ブッキー、せつなが振り向いてくれない……」 (棒読み)「ラブちゃんは可愛いから大丈夫だよー」 「感情なし!?はあぁ、だってせつなってば口を開けば美希美希って」 「だから大丈夫だって。せつなちゃんヘタレだから」 「ちょっ、あたしのせつなを!そ、そうだよね。大丈夫だよね」 「当分はね」 「はうぅ」 「ラブちゃんもヘタレだから」 「むー、ブッキーってば優しくなーい」 「諦めないの?」 「諦めないよ!あたしはせつなが大好きだからね」 「あ……そう」 「ん?なんか元気なくない?あたしはブッキーも美希たんも大好きだから」 「うん、私もラブちゃんが好き」 「へへー、じゃあそろそろ帰るね。まったねー」 「うん。バイバイ。……………………………私のヘタレ」 み-734へ
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【8月21日】 『いろんな意味でピンチ』 タルト「アイタ、アイタタタ……。冷たいもん食べ過ぎて、お腹が痛うなってきたわ」 祈里 「大変! 横になってて、まずお腹を暖めなきゃ」 ラブ 「それって大変なことなの? タルト、大丈夫?」 祈里 「胃が冷えて動かなくなると色んな障害が出るのよ。簡単に考えてちゃダメ!」 せつな「私にもできることないかしら?」 タルト「みんな優しいなあ……おおきに」 せつな「私たちの分のアイスまで食べちゃったお仕置きは後ね」 ラブ 「うん、元気になってからだね」 祈里 「早くよくなってね、タルトちゃん」 タルト「…………………………」 【8月22日】 『天然? 計算?』 祈里「美希ちゃん、海の写真ができあがったよ」 美希「ほんとだ、楽しい思い出がたくさんつまってるわね」 祈里「美希ちゃんの写真は全部ポーズ取ってるね」 美希「まあ、仕事柄ね。ラブは声かけられない限り全然気が付いてないみたい」 祈里「遊ぶ時の集中力がすごいよね」 祈里「せつなちゃんは気が付いてるけど、ポーズは取りたがらないみたい」 美希「恥ずかしいんでしょうね。そう言えばブッキーの写真は少ないわね」 祈里「わたしも恥ずかしいから主に撮る方だったの」 美希(それにしては、可愛らしいポーズ決めまくってるわよね……) 【8月23日】 『今は力を蓄える時』 ミユキ「今日は野外ライブでダンスするの。思いっきりハジケちゃおーっと!」 ラブ 「い~な~ミユキさん。あたしも思いっきりみんなの前で踊ってみたい」 せつな「はじけるって踊り狂うって意味よね。情熱的でいいわね」 祈里 「成熟して割れるって意味もあるみたいよ」 美希 「クローバーにぴったりの言葉ね。アタシたちはまず成熟目指して練習しましょ」 【8月24日】 『それぞれの楽しみ』 せつな「シフォンは暑くてもへっちゃらね」 シフォン「シフォン、夏だいすきー!」 あゆみ「若いっていいわねえ」 圭太郎「僕らも楽しくて仕方ない時期もあったんだが」 ラブ 「今は楽しくないの?」 圭太郎「夏そのものが楽しいとは思えなくなったなあ」 せつな「そうなの……」 あゆみ「大丈夫よ。その分、あなたたちの喜ぶ姿が楽しみになったから」 【8月25日】 『願い星、叶え星』 ラブ 「流れ星を見たら、願い事を3回唱えると願いが叶うんだって。見てみたいなぁー」 せつな「あっ、流れ星よ!」 ラブ 「ホントだ! えっと……」 せつな「消えちゃった……」 ラブ 「あんな一瞬に3回もお願いするなんて……」 あゆみ「それができるくらい普段から強く願えば、必ず叶うって意味なのかもしれないわね」 【8月26日】 『どうしても動物にしたいらしい』 タルト「涼しい部屋でお昼寝すると、気持ちええなぁ……zzz」 せつな「まったく、これじゃあナマケモノね」 タルト「誰がナマケモノやねん! お昼寝はスウィーツ王国の習慣なんや」 祈里 「大丈夫よ、タルトちゃん。ナマケモノってああ見えて働き者なの」 タルト「パインはん、フォローは嬉しいんやけど論点が違うんや~!」 【8月27日】 『夏休みの最後と言えば』 せつな「もうすぐ夏も終わり。楽しい季節はあっという間に終わっちゃうのね」 ラブ 「お盆が終わると夏も終わりって気がするよね。なんだか寂しいね」 あゆみ「ラブの場合は寂しいじゃなくて、忙しい、でしょ。宿題ちゃんとやったのかしら?」 ラブ 「あはは……まだ3日もあるからなんとか……」 せつな「せっかくの感傷が台無しね。しょうがないから手伝ってあげる」 【8月28日】 『良い子は真似しては~』 祈里 「今日はみんなで、残っていた花火をするの。夏休み、楽しかったなぁー」 タルト「見ときや、シフォン。こうやって束ねてやな~まとめて火をつけるんや」 美希 「危ないからやめなさい!」 せつな「タルトは動物なのに火を恐れないのね」 タルト「だ~か~ら~! 動物やないって何回言えば……」 ラブ 「タルト、タルト、尻尾が燃えてるよ!」 タルト「ぎゃあ――!あちち――!」 祈里 「大変! 火傷のお薬持ってくるね」 美希 「これで本当に火が苦手になりそうね……」 【8月29日】 『癒しのお仕事』 ラブ 「今日はクイズ! ブッキーの将来の夢はなんでしょう? 答えは明日!」 美希 「デザイナーなんてどうかしら? ブッキーの服でショーに出てみたいな」 祈里 「嬉しいけど、手芸は趣味でちょっとやってるだけだから」 せつな「じゃあ、コックさんなんてどうかしら?」 タルト「アカン、それだけは絶対あらへん!」 祈里 「タルトちゃん、それどういう意味かな?」 【8月30日】 『名医です』 ラブ 「ブッキーの夢は、お父さんみたいな獣医さん! ブッキーならきっと、やさしい獣医さんになるね」 タルト「そら~、いっぱい食べんとアカンなあ~」 祈里 「タルトちゃん、体形のことじゃないの……」 せつな「正おじさまの目で見つめられると安心するわ。包容力も大事よね」 美希 「おじさんって自信にも溢れてるわね。患畜も安心するんじゃないかしら」 祈里 (お父さんって評判いいんだ。がんばらなくっちゃ……) 【8月31日】 『巡りゆく季節』 サウラー 「夏の終わりは、なんだか少し切ないね」 ウエスター「それは違うぞ! 夏が終わるのではない、秋がやってくるのだ!」 サウラー 「君のそういう前向きなところだけは、大したものだと思うよ」 ウエスター「スポーツの秋、実りの秋、食欲の秋、行楽の秋、秋も楽しいことがいっぱいだぞ」 サウラー 「学びの秋と、読書の秋と、芸術の秋が抜けているのは気のせいかい?」 ウエスター「秋は短いからな、楽しいことだけで精一杯だ」 新-323へ
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爽やかな秋晴れの空。うろこ雲と呼ばれる、真っ白で影のない小さな雲片が無数に広がる。絶好の運動日和に恵まれた。 四つ葉中学校の校庭に、千人近い生徒が整列する。父兄も加えると、動員数二千人を超す一大イベントだ。 朝のうちは寒さが厳しく、生徒たちは半袖シャツとパンツの上にジャージを着込んでいた。 運営本部の大きなテントの前には、計三十本にも及ぶ、大きなクラス団旗が連なる。 風を受けてはためく姿は、見る者の心を鼓舞し、闘志を燃え上がらせる。 校長先生の挨拶が終わり、三年生の選手代表が宣誓を行う。 一人の少女が生徒の間を潜り抜け、校長に入れ替わって壇上に立つ。 体重を感じさせない軽やかな身のこなし。踵から頭の先まで、芯が入っているかのような立ち姿。それだけで、相当に鍛え込んでいる生徒であるのがわかる。 女子としては平均的な身長。肩に掛かる程度の長さの黒髪。遠目には、他にこれといった特徴のない、地味な印象の女の子。 しかし、間近で見た者は息を呑むだろう。透き通るように白い肌。端正な顔立ち。小柄ながらも、頭身の高い理想的な体形。一般人とは異なる存在感と、清楚な雰囲気を持つ少女だった。 「宣誓! 我々、選手一同、九百二十五名。四つ葉中学校の生徒として、全力で競技に臨み、精一杯戦い抜くことを誓います! 選手代表、東せつな」 少し低めの、強い意志を感じさせる、凛とした声が校庭に響き渡る。 そんな話は聞いていないと、少女のクラスメイトと両親は目をパチクリさせる。 盛大な拍手の中、体育祭は幕を開いた。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。四つ葉中学体育祭(後編)――』 駆け足で戻ってきたせつなの誘導で、クラスは待機場所のテントに向う。そこで質問責めにされるものの、軽くかわして全員に最初の競技の準備を促した。 せつな自身も、ジャージの上着を脱いで柔軟運動を始める。「昨年の体育祭を見せてもらっておいて良かったわ」と、ラブに囁く。 ラブは返事もせずに、ポカンとせつなを見つめたまま動かない。 「どうしたの? ラブ。ちゃんと準備運動をしないと、すぐに綱引きが始まるわよ」 「あ、うん、見惚れちゃって。おとうさん、ちゃんと撮っててくれたかなあ?」 「馬鹿なこと言ってないで、早く用意して行くわよ。一戦でも見落としたら、その分だけ不利になるわ」 「は~い、って、見落としたらどうして不利になるの?」 今年の綱引きは、紅白ではなくクラス対抗のトーナメント戦だ。競技が長引くのを避けるために、学年ごとに三ヶ所に別れて同時進行する。 せつなは各クラスの特徴を見抜いて、その対策を立てるつもりだった。 綱の引き方には大きく三種類ある。開始と同時に全力を出す先行型。中腰でひたすら引っ張り続ける攻撃型。ホールドして相手の疲労を待つ守備型だ。 先行型は攻撃型に強く、攻撃型は守備型に強く、守備型は先行型に強い。三すくみと呼ばれる関係だ。 せつなのクラスは、その全てに対応できるように練習を積んでいた。 どこと当たっても勝ち抜けるように、せつなはそれぞれのクラスの動きをじっくりと観戦した。 「せつな、なんだかとっても楽しそう。やっぱり勝負事は好きなんだね」 「フフッ、そうね。確かに嫌いじゃないけど、楽しいと思えるのはみんなが一緒だからよ」 せつなたちのクラスの番が回ってくる。音楽と共に駆け足で入場して、速やかに左右に分かれてポジションを確保する。 ロープはなるべく端から端までを平均的に使い、足は肩幅で水平に開き、左右の手をくっつけて綱を握る。 そして、一糸乱れぬ直線で整列して待機する。 その姿は、他のクラスと比べると、遠目からはっきりわかるほどに違っていた。 ピィッ――! という笛の合図とともに、麻で編まれた太いロープが持ち上がる。『オーエス、オーエス』『ワッセ、ワッセ』の掛け声で、ロープが左右に引かれ合う。 しかし、拮抗していたのは一瞬だった。開始直後に勝負を賭けていた相手チームは、力を温存していたせつなたちに対抗できなくなる。 ロープ中央の赤いマーキングが四メートルを越えて、勝負ありのホイッスルが吹き鳴らされた。 「圧勝だったね! せつな」 「凄いじゃない、これなら優勝できるかも?」 「そうね。でも、もともと団体戦は落とすわけにはいかないのよ」 そのままの勢いで、せつなたちのクラスは、特に苦戦もせずに綱引きで優勝した。 幸先のいい出だしに、クラスメイトの士気も高まる。 次はクラス選抜の短距離走だ。七人の代表選手が百メートルを走り抜ける。せつなたちは十クラス中で、一位に二人、二位に三人、三位と四位に一人づつだった。 期待を遥かに上回る成果に、クラスから一斉に歓声が湧き上がる。喜び合う選手たちの姿にせつなの心も弾む。 続いて、午前中の見せ場である、中距離の二百メートルと長距離の八百メートル走が行われる。 これが苦しい結果となった。中距離では何とか半数が上位に食い込んだものの、長距離ではどうしても体力の差が響いてくる。 短い練習期間では、フォームの矯正はできても、体力の向上は望めない。長距離は最下位となり、クラス順位を大きく下げてしまった。 そして、全員参加の球入れ合戦。 垂直に五メートルの高さに掲げられた籠に、百個のお手玉を投げ入れる種目。 いくつか投げてことごとく外したラブは、拾ったお手玉をせつなに片っ端から渡す作戦に出た。 せつなの投げたお手玉は、緩やかな弧を描いて籠に収まる。何人かがそれを真似て、特に練習しなかったにも関わらず二位の成績で終わった。 その後の、借り物競争とパン食い競争は大活躍だった。ここで、本来の主役級の選手を投入しているのだ。 お父さんと書かれた札を持って、父兄用のテント目指して高速で駆けるせつなの姿は、一時、会場中の話題をさらった。 パンを取るのにもたついた陸上部のクラスメイトが、最下位からトップまでをごぼう抜きにして、一着でテープを切る姿は圧巻だった。 「現時点で、総合三位ね。ここで食らい付いておかないと、後半で追いつかなくなるわ」 「午後の種目は、二人三脚リレーからだね。絶対に勝とうね!」 「もちろんよ!」 昼食の時間になった。みんな後半の競技に必勝を誓って、それぞれの家族の元に向った。 ラブとせつなは、あゆみと圭太郎が待つテントへと向う。そこで合流して、お弁当は少し離れた場所でシートを引いて取ることにした。 まるで学校の中でピクニックしてるみたいだって、せつなが嬉しそうに微笑んだ。 「間に合って良かったよ。おとうさんやおかあさんと一緒にお昼ご飯を食べられる体育祭は、中学で終わりなんだ」 「そうね、高校からはお昼も別々。なんだか味気なくなるわね」 「まあ色々問題もあるし、恥ずかしくなる年頃だからな」 「だったらその分、今日を精一杯楽しむわ!」 「その意気だ。しかし、せっちゃんは足が速いんだな。僕も自信はあったんだが……」 「おとうさん、せつなに引きずられてるみたいだったよ?」 「お父さんだけズルイわよね。わたしも一緒に走ってみたかったかも?」 「ええっ~~!!」 借り物競争の札に書かれていたのは、お父さんかお母さん。どちらも来ていない場合は教師で許される。足には自信があると、圭太郎が買って出たのだった。 ルール上、手を繋いで走らなければならない。真っ赤になったせつなが可愛いと、クラスメイトから冷やかされたりもした。 楽しい休憩時間はあっという間に過ぎて、午後の競技を迎える。 二人三脚のリレーは、バトンではなくタスキを掛けることでタッチを行う。アンカーのラブ・せつな組がそれを受け取った時には、既に他のチームの全員が先を走っていた。 せつなのクラスの出場選手は、主に運動部に所属している者で固められている。足は速いのだが、部活動があって十分に練習できなかったことが災いした。 差はたかだか十メートルちょっと。しかし、それが絶望的な開きでもあった。 小回りの聞かない二人三脚は、前方の組を追い抜かして走るのが極めて難しい。スタートで抜き出た者たちが、そのまま勝者となる競技なのだ。 「誰だよ! 二人三脚でリレーしようなんて言いだしたのは?」などと応援席で野次が飛ぶが、それも後の祭りでしかない。 「せつな、あたしに考えがあるの。一か八か、本気で走って外側から追い越そう!」 「面白いわね、乗ったわ。ラブは全力で走って! 私が合わせてみる」 「行くよ、せつな! 3、2、1、GO!!」 肩を組んでいた二人の手が、腰に下りて体操着を握る。上体を自由にして、肩を回転運動から上下運動に切り替える。前傾姿勢によるピッチ走法。それは、ソロの短距離走のモーションだった。 最後尾のペアの走りが突然変わる。見たことも無いフォームで追い上げるペアの姿に、会場中から驚きの声が上がる。 せつなは呼吸をラブに合わせて、全神経をラブの腰にかけた手に集中させる。 そして――――更なる加速。二人は息を止め、歯を食いしばって走る。有酸素運動から、無酸素運動への変化。 「イチ、ニイ。イチ、ニイ」「右、左。右、左」テンポよく声を出して走る前方の集団に、ラブとせつなは外側から大きく弧を描いて迫る。 「凄い……。ラブとせつな、声を出さずに走ってる?」 「どうやって合わせてるんだ? しかもあれ、二人三脚のスピードじゃないぞ!」 この世界の体術に、相手の体に触れることによって次の行動を読み取る技術があるという。 達人と呼ばれる者の中には、触れずとも察知してしまう者もいるのだとか。せつなの使った技術はそれに近かった。 もちろん、せつなはそこまでの域に達しているわけではない。だけど、クローバーの四人なら、相手を見なくても複雑なダンスの動作すら一致させられる。 ダンスと体術の融合。そして、技術だけでなく、心まで一つにして共に歩める信頼関係。それが限界を超えた同調を可能にする。 『ゴ――――ル!!』 ラブとせつなのペアが白いテープを切る。クラスの垣根を越えて、惜しみない拍手が二人を包んだ。 次のプログラムは障害物競走。お遊びの要素の強い種目だが、本気で挑めば、ある意味最も過酷な競技かもしれない。 麻の袋に入って、ピョンピョンと飛ぶ。マットの上ででんぐり返し。ハードルを一本目は飛び、二本目はくぐり、交互に三回繰り返す。最後の仕上げは網くぐり。 これらの障害を、十数メートルのダッシュを繰り返しながら行うのだ。 そして、この競争こそせつなのクラスの独断場だった。体力自慢の精鋭がエントリーする。一つ一つの障害に運動能力は関係なくても、後半の持久力が違う。 圧倒的な差で一着をもぎ取った。 そして、騎馬戦。男子と女子で一クラスにそれぞれ一組づつ出場する。花形競技の一つ。こちらも、出場したことのないメンバーで編成されていた。 十分に練習は積んでいたものの、上位クラスのチームとしてマークされていたのか、男子の騎馬は開始早々に敗れてしまう。 そして、迎える女子騎馬戦で―――― 「由美っ!!」 「いけない!!」 騎上にいたクラスメイトの由美が落馬してしまう。すぐに救護班が呼ばれ、保健室に連れて行かれる。 もちろん、せつなとラブも付き添った。 「由美、大丈夫? 痛む?」 「ごめんなさい、私の組み方が悪かったんだわ……」 「平気平気、たまたまドジ踏んじゃっただけだって。ゴメンね」 外の喧騒に比べて、不気味なくらいに静かな校舎の中。保健室だけが多くの怪我人で賑わっていた。 由美本人の申告通り、軽い捻挫で済んだらしい。 とは言え―――― 「ゴメン、せつな。わたし、リレーに出なくちゃいけないのに……」 「気にしないで、ゆっくり休んでいて。今から代走を探すわ。無理をさせてごめんなさい」 「せつなは悪くないよ! こんなに頑張ってるじゃない!」 「ラブ。次の競技まで、まだ少し時間があるはずよ。みんなを集めるのを手伝ってほしいの」 「うん……。わかった」 ラブは一足先に戻って行った。由美は簡単な手当ての後、校庭に戻ることを望んだ。 もう競技に参加は出来なくても、みんなの戦いを見届けたいからと。 せつなは由美に肩を貸して歩いた。 頼りないほど軽い由美の体重が、今のせつなにはとても重く感じられた。 クラスのテントに着いた時には、みんな集まってくれていた。由美の怪我が大したことはないと聞いて、ほっと胸を撫で下ろす。 「みんなに謝りたいの。私が無理を通したばかりに、由美が怪我をしたわ。勝てたはずの競技を落として、楽しい体育祭を滅茶苦茶にしてしまった」 「せつなは悪くないよ!」 「そうよ! わたしが怪我をしたのはドジだからだし」 「二人は黙ってて! みんな――――ごめんなさい!」 せつなは深く頭を下げる。総合順位は再び三位、十クラスの中では悪い成績じゃない。でも、当初の出場選手で挑んでいたなら、十分に優勝が狙えたはずだった。 それだけの練習をしてきたのに、みんな付き合ってくれたのに、それを活かすことができなかった。 花形競技の大半で破れ、そこから外してしまった人たちの活躍で上位を維持している。せつなの思惑は全く外れてしまっていた。 「今さらだけど、みんなの意見を聞かせて。最後のリレーで一着を取れば、逆転優勝も可能よ。みんながそれを望むなら……」 せつなは、今からでも登録を変更したいと告げる。この日のために練習に付き合ってくれたメンバーには、後からどんな形ででもお詫びをするからと。 「誰も――――責めてないだろ?」 「えっ?」 「東がメンバー表を組み替えてなかったら、俺はパン食い競争に出る機会なんて一生なかったと思う」 「僕も、障害物競走だって面白かったよ。一着取れたしね」 「ある意味、昨年よりも目立てたよな」 「初めてちゃんとした競技に出れたわ。勝てるかも? って期待しながら走れた。練習も、本番も最高に楽しかったもの」 「まだ勝負は付いてないじゃない! ハンデを背負って勝つのが楽しいんでしょ。みんなで一丸となって」 「予定では、現時点で首位をキープしておくはずだったわ。次のリレーは一番不利な競技なのよ」 みんなの気持ちに胸が一杯になりながらも、せつなの表情は晴れない。 「メンバーの変更は反対だな。今日まで頑張ってきたんじゃないか」 「繰上げなら、いいんじゃないかな?」 「そうかっ! わたしの代走が必要よね!」 「えっ? それって……」 「責任を感じているなら、いっそ、本当に責任を取ってみてはどうかな?」 「東さんがアンカーを走りなよ。アンカーは二百メートルだろ? 東さんなら挽回できるかもしれない」 「でも……私が……私だけ……」 「わたしも見てみたい。せつなの本気の走りを!」 「文化祭でわかっちゃったの。東さんて、まだ隠してる力があるのよね?」 「やるっきゃないね! せつな。あたしたちでバトンを繋ぐから、みんなの想いをゴールに届けて!」 「――――わかったわ。全力で、精一杯頑張ってみる!」 『それでは、最終種目。クラス選抜リレーを開始します。出場選手は所定の位置に集まってください』 最終競技を告げるアナウンスが鳴り響く。熱気に湧き上がっていた会場が、一瞬、シンと静まり返る。クラスメイトの表情も、緊張で固く引き締まる。 それは、出場しない生徒たちも同じだった。これまでの練習の成果が、その結果が、この競技で決するのだ。 「行こう、せつな。あたしたちだけじゃない、クラスみんなで繋いだバトンで、幸せゲットだよ!」 「勝ってね、せつな。わたしも、気持ちは一緒に走ってるから!」 「精一杯――――がんばるわ」 せつなの返事が、声が、普段より低く、力強く響く。 表情から穏やかさが消え、つり上がった瞳は、前方を鋭く見据える。 身体はしなやかにリラックスしつつも、秘めたる爆発力を周囲の者に感じさせる。 激しい闘志を全身に纏う。その姿は、狩りで獲物を前にした、肉食獣のように美しかった。 一瞬、髪の色が銀色に輝いたようで、ラブは目をこすってもう一度せつなを見る。いつも通りの黒髪だった。 でも――――わかる。今のせつなは、普段のせつなとは違う。 日常生活に適応するために、無意識に力を抑えた中での精一杯じゃない。 生きていくために身に付けた、能力の限界に挑んでいる。東せつなの全てを込めた、全身全霊の精一杯なのだと。 第一走者がスタートラインに一列に並ぶ。 十名のクラス代表が一列に並ぶ。せつなのクラスはインコースから七番目。クラス順位によるハンデだった。 両手の指を一杯に広げ、上体を低く沈め、効き足を前に、逆足を後ろに伸ばす形での構え。 クラウチングスタート。本来は陸上部の選手しか使わない、本格的なスタート方法。彼は走りは練習せずに、ただその一点だけを磨いてきたのだ。 『パァ――ンッ!』 銃声とともに、第一走者が駆ける。ここに、(あくまでリレーの出場者の中では、だが)一番速い選手を持ってきていた。 楕円形のコースを走るリレーでは、スタートダッシュと、第一走者の順位が後半に大きく影響する。 直線よりカーブが多いコースでは、前方の選手が障害となり、順位を入れ替えるのが難しいためだ。 トップでスタートを切ったものの、本来は走ることを得意としない生徒でしかない。その後二人に抜かれて、三位でバトンを渡した。 「がんばって! がんばって!」と、せつなは心の中で声援を贈る。声は出なかった。言葉にはならなかった。既に、身体が臨戦態勢に入っているのだ。 アンカーの手前、ラブが準備体勢に入る。バトンゾーンのギリギリ前から、タイミングを見計らって地面を蹴る。 十メートルのゾーンを駆け抜けた時、ラブの走行速度はランナーの速度とぴったり同じとなる。 相対速度がゼロとなった制止空間で、バトンの受け渡しが確実に行われる。その時点での順位は八位。健闘も及ばず、第一走者から大きく落ち込んでいた。 大方の予想を裏切り、ラブは速かった。もともと運動の得意なタイプではない。しかし、プロダンサーという新たな目標を持ったことで、自主トレーニングを再開していた。 一度ダンスで鍛えた肉体は、速やかに筋力を取り戻す。せつなと接する機会も多いため、一番、体育祭の練習に励んでいたのもラブだった。 出番を間近に控えて、せつなの集中力が爆発的に高まる。 自己暗示により、心理的ブレーキを解除する。本来の力を解き放つ。 (思い出せ! この身体は、戦うために作り上げてきたもの。疾走は、その基本のはず) 己の肉体を管理し、コントロールする。心臓の鼓動。血液の流れ。細胞の一つ一つに至るまで。 足の動きを司る、大腿四頭筋・下腿三頭筋・腸腰筋・腹直筋・脊柱起立筋。そして、上体の腕の振りに必要となる、小胸筋・小円筋・広背筋。 それぞれに意識を飛ばし、働きかけ、活性化させる。使わない筋肉は脱力させ、全てのエネルギーを走ることのみに集束させる。 トーン、トーン、と、せつなは小さく二回ジャンプする。それで全ての筋肉は繋がり、覚醒し、一つの目的の達成を誓う。 ラブが地面を蹴るように力強く走る。コーナーで前の走者との距離を縮め、直線で一気に二人抜き去った。 「せつなぁ――ッ!!」 ラブの声が聞こえたような気がした。実際には無酸素運動の真っ最中であり、声を出す余裕なんてあるはずがない。 気迫のこもった視線が、想いが、心の声をせつなに届ける。 ラブがバトンゾーンに差し掛かる。他の生徒のようなペース調整もなく、トップスピードのまま全力で走り抜ける。 受け渡しなんて考えていない。距離が縮まらないせつなの背中を、ただひたすらに追いかけた。 せつなもラブを一切見ない。背を向けて跳ぶように走り出す。まるで吸い込まれるように、ゾーンの中ほどでせつなの手にバトンが収まった。 バトンゾーンの残りは加速に使用された。ラブが蹴るように走るなら、せつなは跳ぶように走る。 足を地に付けて弾ませ、その反動で後ろ足を真っ直ぐに伸ばし、最後のランでリズムをつけて加速していく。 手を大きく動かし、歩幅はもっと大きく動かし、地面を蹴るのではなく掴んで跳ぶ。それは、せつなの強靭なバネと脚力の成せる技だった。 高速走行で視界の狭くなったせつなの目に、前方の走者の姿が映る。次の瞬間には、遥か後方に置き去りにした。 各組最高の俊足を集めたクラスリレーのアンカーの中にあって、それすらも相手にならないとばかりに、次々とせつなは抜き去っていく。 四人抜いて、トップのランナーと並ぶ。男子生徒であり、その綺麗なフォームはあきらかに素人ではなかった。 最後の直線でせつなは併走する。流石に、中々抜かせてもらえない。 その時、クラスのみんなからの声援が耳に飛び込んできた。 「せつなー! 頑張れ――――!!」 「せつなー! 負けないで――――!!」 「東さん、ファイトー!!」 「いっけぇぇ――――!!」 せつな自身、もう限界と思われた身体に、更なる力が宿る。声援に背中を押されるようにして、更に加速し―――― ――――抜き去った。 「嘘だろ……。あいつ、男子短距離の全国大会選手なんだぞ……」 「それを遥か後方から抜き去るって、百メートル何秒で走ってるのよ……」 二位のクラスから、信じられないといった声が上がる。そのつぶやきも、すぐに周囲の大声援にかき消される。 せつなの身体が真っ白なテープを切って、一着でゴールインした。 勢いを殺しきれずに、限界を超えていたせつなは転倒しそうになる。 「お疲れ様、せつな。おめでとう」 バランスを崩して倒れそうになったせつなを、ラブが身体を張って受け止める。 何か返事をしようと思ったが、呼吸が乱れて上手く声が出せなかった。 クラスメイトの祝福と歓声に包まれて、せつなはしばらくの間、幸せな気持ちで目を閉じた。 全てのプログラムを終えて、閉会式が行われる。体育祭の優勝トロフィーの授与。せつなはクラス代表として再び壇上に立つ。 銀色に輝く杯の中央には、四つ葉のクローバーの意匠が刻印されている。左右の取っ手はハートの形になっていた。 二千人の拍手に包まれて、せつなはトロフィーを受け取り、頭を下げる。 そして、体育祭の成功の証を手に、クラスメイトの待つ場所に、 ――――大切な仲間たちの元に戻った。 「優勝できたのは、みんなのおかげよ。私――――何にもわかってなかった」 せつなは、今の心境を素直に話す。自分の気持ちを素直に伝える。それも、最近のせつなの大きな変化の一つだった。 自分が体育祭の委員に選ばれたのだから、自分の力で成功させなければならないと思った。 自分が頑張って、みんなを幸せにしたいと思った。 「でも、そうじゃなかった」 みんなの幸せは、みんなで掴めばいいんだ。 時には、選択を間違うこともある。正しくても、力が及ばないこともある。 失敗しても、挫けても、落ち込んでもいいんだ。支え合うことができれば、人は何度でも立ち上がれるのだから。 「みんな、ありがとう。私――――今日の、この日のことを一生忘れない」 瞳を潤ませてお礼を言うせつなに、再びクラスメイトからあたたかい拍手が送られる。 せつなの胴上げをしよう! ってラブが提案したけど、男子たちの目が嬉しそうに輝いたので見送られた。 惜しそうな、情けない男子たちの表情に、思わずせつなが吹き出した。 つられて、みんな一斉に笑い出す。 また一つ、せつなを取り巻く幸せの輪が広がった。クラスの結束も、より確かなものとなっただろう。 勝利と達成感の余韻の中、惜しみつつ解散する。みんな、それぞれ家族の元に戻っていく。 せつなとラブもまた、あゆみと圭太郎と共に家路に着いた。 大切な教えと、喜びを胸に抱いて―――― 新-373へ
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第13話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。海水浴の思い出――』 潮風に吹かれてせつなの髪が舞う。 爽やかな磯の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。 たっぷりの水分を含んだ空気がやわらかく肌をつつむ。 大きくひらいた二つの瞳が喜びと感動でキラキラと輝く。 「綺麗……」 せつなは一言そうつぶやいて、再び言葉を失った。 寄せては返す不思議な水の動き。 止まることのない美しい視界のリズム。 大きな波は水際で弧を描く白のライン。 小さな波は海面を揺らして描くアート。 足元は美しく透き通る無色。 浅瀬は空を落としたような淡い水色。 徐々に色を濃くしていき、中海は煌くような碧青。 波の高低で色を繋ぎながら、外海は原色の真なる青。 真っ白な砂浜。澄み渡る青空。背後に広がる山と深緑の木々。 初めて見たわけではないけれど、やっぱり思い知らされる自然の美しさ。 祖国が発展と共に失ってしまったもの。世界からも、そこで暮らす人々の記憶からも。 こんな景色と共に生きていくことができるなら、人の心もどこまでも美しくなれるのかもしれない。 あんな風に―― お日様の申し子のような輝きを放つ少女。 海の美しさを人に例えたかのような少女。 柔らかい砂浜のような包容力を持つ少女。 せつなは先に飛び込んではしゃいでいる親友を見つめて微笑んだ。 そして波打ち際をゆったりと歩く。早朝の日差しは優しく、水はひんやりと冷たい。 あまりにも綺麗で気持ち良くて、なんだかすぐに飛び込んでいくのがもったいないような気がした。 濡れた砂の上の散歩。一足ごとに軽く沈んでは押し返してくる。肌をくすぐるような心地よい海水の流れ。寄せては返す波の動きは、まるで自分を海に誘ってるように感じられた。 しばらく歩くと、足元に煌く石を見つけた。それはよく見たら貝殻だった。色は薄いピンク色。宝石のような深みのある輝きを放つ。傷一つ無い滑らかな曲線。やさしいカタチ。 せつなはそれを水着のポケットに大事にしまいこんだ。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。海水浴の思い出――』 「せつな~~早くおいでよ~~」 「せつなちゃん、一緒に泳ごう」 「はは~ん、確か泳げないんだっけ?」 「馬鹿にしたわね~とっくに克服したんだから!」 クスッと笑ってせつなはみんなの元に駆け寄った。いや、泳ぎ寄った。 大切な仲間の輪の中にいられるのは無上の喜び。でも、時々ひとりの時間を持つようにしていた。 夢中になると見えなくなるものもあるから。一つでも多く、たくさんの喜びや幸せを見つけたかった。 とは言っても、カナヅチ呼ばわりされては黙っていられない。 美希の挑発に乗ってせつなはクロール勝負をすることになった。ラブのいる地点から祈里のいる地点まで約五十メートル。 ラブの合図で一斉にしぶきをあげる。最初の十メートルほどはほとんど差がなかった。しかし、軽やかな美希のフォームに比べてせつなのそれには力が入りすぎていた。 また、途中で息継ぎを失敗してしまい、むせて大きく時間をロスしてしまった。ぐんぐんと差が付いていき、結果はせつなの惨敗だった。 「アタシの勝ちね。まあ、付け焼刃にしては頑張ったほうね」 「波に慣れてなくてちょっと海水を飲んじゃっただけよ。次は負けないわ!」 「せつなちゃん落ち着いて。美希ちゃんも煽らないの」 「いいじゃん、もう一回やろうよ」 二本目の勝負も惨敗。しかし、いくらか距離が縮まっていた。せつなは海水独特の高い浮力を活かして、大きなフォームで速度を上げていく。海での息継ぎのコツも掴んだようだ。 そして懲りずに三本目の勝負を求めるせつな。軽口を叩きながら受けて立つ美希。今度は惜敗と言えるくらいの接戦となった。 ブッキーの静止も聞かずに四本目の勝負を行う。その中盤でついにせつなが美希を抜いた! その直後に―― 「せつなっ!」 美希が気が付いてすぐに助けに向かう。せつなは足が痙攣して思うように動けない。 冷たい水と不慣れな競泳。悪条件の中で高い運動神経を使って強引に動いたため、体が付いていかなくなったのだ。 せつなは美希の肩を借りてテントに戻る。祈里が手際よく手当てをする。 「ごめんなさい――つい夢中になって」 「大丈夫、このくらいならすぐ良くなるよ」 祈里のマッサージで足の痛みと震えが引いていく。念のためにとテーピングで固定してもらう。 「これで安心よ」と微笑む祈里の言葉でみんなの顔に笑顔が戻る。とは言ってもすぐに泳げるようになるわけではない。 あゆみが見かねて声をかけた。 「せっちゃんにはわたしが付いておくわ。みんな遊んでいらっしゃい」 「あの――おばさん、アタシが一緒にいます」 遠慮するあゆみを美希が押し切った。陽に焼きすぎるのも困るからと言われてあゆみも引き下がった。 楽しい時間の邪魔をしてしまった。責任を感じて小さくなって座るせつな。隣に美希が立つ。こちらも話しかける言葉に迷っていた。 「さっきはごめんなさい。悪気じゃなかったの」そう言うつもりだった。でも、出てきた言葉はその反対だった。 「前から思ってたけど、せつなって負けず嫌いよね」 「――ごめんなさい」 「意地っ張りだし、頑固だし」 「………………………………」 「結構自己主張は強いほうなんじゃない?」 「そこまで言う? 美希は私のことが嫌いなのね!」 せつなは怒って勢いよく立ち上がる。しかし痛みからバランスを崩して美希の胸に倒れこむ形になった。 赤くなって慌てて離れようとする。でも美希はそのまませつなの頭を優しく抱いた。水着一枚だけ隔てた胸に顔をうずめる。 ひんやりした冷たさとじわっと伝わってくる温かさ。そしてやさしい心音。体から力が抜け抗うことができなくなる。 「楽しかったんでしょ、自分を出すのが。いつも――そうしていればいいじゃない」 「私は、何だって自由にやらせてもらってるわ。でも……ありがとう」 美希の態度と言葉に秘められた優しさに気が付いて胸が熱くなる。 自分を抑えてしまうところがある。そう言われているせつなの素の感情を引き出すために、心の底から楽しんでもらうために言った言葉だった。 でも、楽しんでもらいたいのはせつなも同じ。名残を惜しむように軽く抱きしめてから、せつなは美希を突き放した。 「せつな?」 「もう平気よ、少し散歩してくるわ。美希はラブたちのところに行って」 また少し、一人になりたくなった。このままだと優しさと愛情に溺れてしまいそうになるから。 それは止めどなく押し寄せて、決して引くことのない波。海のように広くて深くて美しくて―― でも、それに慣れてしまいたくなかった。身をゆだねるのが怖かった。 どれもこれも、自分には過ぎたものだと思うから。自分を幸せにするために帰って来たわけではないのだから。 日差しが強くなり、熱を持った砂が素足を焼く。せつなはサンダルを履いてこなかったことを少し後悔した。 足の裏の痛みに耐えられなくなって波打ち際に向かう。波が押し寄せて、痛みと共に引いていく。足の先だけ濡れる位置で腰を落とした。 波の音に耳を澄ませる。言葉では表現しきれない不思議なメロディ。波の音にはヒーリング効果があるって祈里が言っていたのを思い出した。 聴いているうちに、ほんとうに気持ちが落ち着いてきた。そして、波の音にまぎれて子供の泣き声が聞こえたような気がした。 せつなは声の主を探すために立ち上がる。もう足の違和感はほとんどなくなっていた。 水際から少し離れた場所で小さな男の子がベソをかいていた。手には小さなスコップ。大波でも来たのだろう。足元には大きな水溜まりが出来ていた。 その隣で流されて形を失った砂の山。それは子供が作ったとは思えないくらい大きなものだった。 「どうしたの?」 「壊れちゃったんだ。僕のお城――せっかく凄いのできたのに」 「そう。なら、もう少し後ろで作り直しましょう」 「もういいよ。どうせ作り直しても、また壊れちゃうんだもん」 小さな悲しみがせつなの心を刺す。かつて彼女もそう思っていた。儚く脆く、すぐに失われるような物に執着するのは愚かだと。でも、そうじゃない。 伝えたいと思った。喜びや幸せは、結果じゃなくてその過程に宿るものだってことを。 「そうね。でもこの海と砂浜は、ここに素敵なお城が出来たことを覚えてるんじゃないかしら」 「海も砂も覚えてなんてくれないよ!」 「だったら、私が覚えておいてあげる」 「お姉ちゃんが? ほんと?」 「約束する。だから無駄なんて言わないの。そして、あなたも覚えておくのよ。楽しかったこと――全部ね」 「うん!」 「じゃあ一緒に作りましょう!」 その子は現場監督にでもなったみたいに鼻高々に指示を下していく。機嫌が見る見るうちに良くなっていく。 こちらまで楽しくなって気持ちが弾んでいく。 さっきのよりもずっと大きなものを作るんだ。そう言って張り切ってどんどん砂を継ぎ足していく。 しかし、どうしても途中で崩れてしまう。 せつなは助け船を出すことにした。濡れているといってもしょせんは砂。粒同士の結合は弱く、衝撃を与えればすぐに崩れてしまう。 “足す”のではなく“削る”のだと。 波の来ない場所を深く掘る。湿った砂地が出てきたら、波際から海水を吸った砂を運んでくる。まずは目的の大きさより一回り大きい砂の山を作る。 出来たらバケツで海水を運んできて念入りにかける。奥の方までしっかりと濡れるように。そして削って行く。上から順に、慎重に、少しづつ形を整えていく。 始めてから一時間ほど経過しただろうか。通りがかる人が立ち止まるくらいの立派な砂のお城が完成した。 「すっごい! すごいよおねえちゃん。僕こんな大きなお城見たことないよ」 「私は手伝っただけよ。これはあなたが思い描いて形にしたもの。素敵よ」 せつなはおとうさんのカメラを借りようと思案する。記念写真を撮ろうと思ったのだ。だけど――やっぱりやめることにした。 崩れるから砂のお城なんだ。砂が乾き、形を失うまでのわずかな時間だけ存在するから美しいのだろう。 写真を撮れば、そこにずっと形は残る。でもその分、この子の心には残らないのかもしれない。なんだかそんな気がした。 「ね、これを見て。さっき見つけたの」 「うわ~お姉ちゃん。それ、すっごく綺麗」 「そう、良かった。これ、あなたにあげる」 「えっ! いいの?」 「ええ、何か記念があると思い出しやすくなるでしょ。一緒に作った砂のお城のこと、この貝殻と一緒に覚えておいて」 「うん。お姉ちゃんも覚えておいてね。僕のこととお城のこと。約束だよ!」 指切りげんまん嘘ついたら針千本の~ます♪ 約束の歌。誓いの歌。厳しいけど優しい歌をその子から教わった。ならば、自分はこの歌と一緒に覚えておこうと思った。 美希と別れて二時間ほど過ぎただろうか。みんな心配してるかもしれない。名残惜しいけど、その子に別れの挨拶をしてテントに戻ろうとした。 「お疲れ様、せつな。いいことしたね!」 「せつなちゃん、ラブちゃんみたいに見えたよ」 「せつな、さっきは無神経なこと言ってごめん」 「みんな……。――勝手に離れてごめんなさい」 いつから見られていたのだろうか、恥ずかしくて顔が赤くなっていくのが感じられる。 みんなから顔を背けるように、もう一度あの子の方を見た。お母さんらしき人の手を引いてお城を自慢していた。 得意満面の――幸せそうな笑顔で。 「さっ、行こう、せつなっ。今からスイカ割りするよ」 「今度は、せつなに華を持たせてあげてもいいわよ」 「言ったわね! 私に勝てると思ってるの?」 「あはは、食べられるように形だけは残してね」 名誉挽回。今度こそ上手にやって盛り上げようとせつなは張り切った。 海で冷やしたスイカを砂の上に置く。頭には目隠し、両手には太い棒が握らされる。誰が最初に割るかを競うゲームらしい。 最初はラブ、もう全然方向が違う。あれでは一日やっても割れないだろう。なんだか可笑しくてみんなで大笑い。 次は美希、方向は近かった。しかし距離を二メートルも間違っていては、やはり割れるはずも無い。 祈里の番、こちらは方向が正反対。ラブの方に歩いていってラブが逃げ回っていた……わざとやっているのかしら。 そしてせつなの番。距離を覚えておく、五メートル二十センチ。目隠しをして体を回される。一回転~二回転~五回転、誤差修正十五度。 このくらいで鍛え上げた三半規管は狂わない。棒の長さは一メートル三十センチ、ここだ! 脱力状態で棒を振り下ろす。高速の打ち下ろし! 当たる瞬間に、柄を硬く絞るように握り込む。命中と同時に棒を引き、衝撃だけをスイカに伝える。 丸い棒で叩いたにもかかわらず、スイカは砕けずに真半分に綺麗に割れた。 拍手喝采。いつの間にか知らない人たちにまで取り囲まれていた。 後から聞いた。一巡目は難しさを体験して、面白おかしく笑うんだって。二順目から目隠しをした人を周囲から声で誘導するんだって。時に嘘も付きながら。 そう言われてみると、自分はおとうさんとおかあさんにも回さずに割ってしまったことになる。 また――やってしまったらしい。あまりにも楽しくて夢中になってしまった。でも、みんなの本当に嬉しそうな表情を見ていたら、これでいいんだって思えた。 それからも色んな遊びをした。ビーチボールにフリスビー。パッションキャッチってからかわれたけど……。 夕方になるとバーベキューの準備。 せつなは不思議に思う。 わざわざ不便な海辺に食材を持ち込んで、真水の調達にも苦労するような場所で砂まみれになりながら夕飯を作る。 なんて無駄で――なんて楽しいんだろう。 一緒に居るみんなの――なんて楽しそうなことなんだろう。 「どうしたの? せつなちゃん」 「バーベキューって、とっても楽しい……」 「なあに、それ? はじめてみたいな顔して」 「だって、ダンス合宿では食べ損なったし、修学旅行はラブの様子がおかしくて――」 だから、また出来て嬉しい。 美しい自然の中で、友達と家族と一緒にいただく夕ご飯。自分の人生にこんな時間があるなんて本当に夢のようだと思う。 日が暮れるまでに帰り支度を整えることが出来た。荷物を車に積み、出発しようとしたところでさっきの男の子がこちらに駆けてきた。 せつなが迎えると、眩しいくらいの笑顔で両手に乗せたものを差し出した。 「おねえちゃん、これ、あげる! 何かお礼したかったんだけど、なかなかいいの見つからなかったんだ」 「私のために、ずっと探してくれてたの? ありがとう、大切にするわ」 大きな巻貝、耳にあててみると海の音が聞こえた。静かに心に染み渡る不思議な響き。後でブッキーが教えてくれた、これは貝のささやきというらしい。 本当は体内の音が貝に反射して聞こえるのだとか。でも、人も海から生まれたのだから、海の音と言えるのかもしれないって。 また一つ、せつなの宝物が増えた。かけがえの無い思い出を携えて。 「あ、見て美希ちゃん、ラブちゃん、せつなちゃん」 「アタシ――海で見るのは初めて……」 「うわ~こんなになるんだ」 「素敵ね。太陽から橋がかかったみたい」 赤い夕日が海面に沈んでいく。水平線から岸近くまで、海面に一本のキラキラ光ったオレンジ色の光線が走る。空を緋色に染めて海に煌く宝石の光を宿す。 海に映る太陽が浮き上がって繋がり、二つの夕日が一つになる。幻想的な光景をみんなで見つめた。 日は沈んでも記憶は消えない。心象風景の一つとして、私たちの心を形作る力となるだろう。せつなは、その思い出を大切な人と共有できることに感謝した。 やがて暗闇に包まれ、車に乗り込み帰路につく。 車の窓から覗く移り行く景色。離れていく海を見ながらせつなは思う。 どんなに楽しい時間もやがて過ぎ去ってしまう。だからせめて、みんな覚えておこう。 綺麗なもの。優しい出来事。楽しい思い出。ひとつひとつ大切に、心の中の宝箱に大切にしまっておこう。 そしていつか、伝えて行きたい。広げて行きたい。守って行きたい。 そう――ラブのように。美希やブッキーのように。おとうさんやおかあさんのように。 みんな――ありがとう。
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GirlsSとMbelievess「トランスフォーマー/リベンジ」レビューあくまで人生ゲームのお話あずよしありがとうマイコーある夕暮れ時の一コマある日の放課後ある朝での勘違いおにぎり!おまつり!お医者さんごっこお相手は…?かりもの!きっと大丈夫きっと忘れないぎゅうかく!けいおん突破リツンユインけいおん!~そして伝説へ~こうしゅう!こんな反応さわ子しゃっくりが止まらないじゃんけんずぶ濡れせんとう!そんなところ汚いよう……たなばた!たれりっちゃんたーらこーたーらこーちっちゃいりっちゃんてわたし!とりめし!どうしておなかがへるのかな?どっちがどっち?にがおえ!ねえ、ちゃんとお風呂(ryのみかい!はしたなりっちゃんひゃくめーとる!ふぁっく!ふにふに時間ぷれぜんと!まな板ままごと!まわるすしみおのおんがえしみかんみのむしを…みんないるよゆうえんち!りっちゃんのちょっと不幸な1日りっちゃんの味わい方りっちゃんはねりっちゃんサスペンス劇場りっちゃん男の人と駅前にいたよね?りつわん!カラオケ2カレーにスルーキャベツキャッチクリスマス会数日前サプライズ・シャッフル!ジャケット写真スリラーズルい女タダノヒミツドッキリ大作戦!パジャマ"に"お・じゃ・まパンツはどこへ消えた?ブランコプロポーズプロ野球×けいおん!プロ野球×けいおん!オールスター編~試合前~ベースはじめました。ポッキーゲームマイ フレンドマンリーツメイドりっちゃんメイド喫茶ラブコメでよくある記憶喪失リッツ軽音部遠征レッツゴー一雫乙女りっちゃん二十歳を過ぎてから仮病何事もチャレンジ傘忘れるなよ!絶対に忘れるなよ!先着一名予約済出来た子だー!初キスの味刻んでも、奏でても北風と太陽半濁音の病気名前をつけてやる境地夢の中へ太陽拳女王様だーれだ!好きな人?学祭前日の部室実況!パワフル軽音部寝言小ネタ-カラオケ弟の巣立ち弟は語る律「アンバサ!」律とギター律の部屋の日記律アフター心に浮かんだことを、そのまま描けばいいんだからね心の扉戦争ごっこ手の話新境地ペヤンデレ新説白雪姫日食!最速の男最高のバースデー最高潮!桜高チャット歯は大切に澪命濃密な時間?の過ごし方焼肉奉行あずにゃん甘ロリっちゃん甘ロリっちゃん2発想メール私と友と弟と秋の日竜宮城に行ってみれば…笑ってはいけないけいおん!線香花火練習の後置いてけぼり脳内メーカー自主練虹が消えた日蚊行け!桜高軽音部言葉に出来ない軽音ヘルパー軽音ヘルパー 2軽音ヘルパー3輝くのはその笑顔避難訓練金の律銀の律雑誌の撮影雛どりっちゃん髪髪型1位おめでとう +澪 澪 ”私、走り気味でもさ、やっぱ、イキが良くってパワフルな律のドラム、好きなんだよ。” りっちゃんと澪がメインで登場する短編SSです。 りっちゃんの幼馴染であり、(ほぼ)公式嫁である澪。 やはりSSの数も他キャラと比べて群を抜いています。 二人の固い友情(ときどき愛情?)をお楽しみ下さい。 ★夜空のムコウ ★澪のキャベツ克服大作戦! ★奏 ★ひまわり ◆これは、過去の話。昔の話。 70で満足?English Lesson!HAPPY BIRTHDAY!Happy NightmareLIKEMiossion ImpossibleSecretive mioある夏の午後うわ…相変わらずすごいな…澪は…お気に入りの髪抱いて今夜もおやすみこれは、過去の話。昔の話。しやわせずっと変わらないそのころぞうきん!たいせつなひとだいっきらい!だーれだ?とんが律コーンなぁ律、そろそろ練習しないか?なぁ澪、アイス食べたいなごり雪なんなんにわか雨ひげ!ひまわりへびめた!まんざい!むいむいやさしさのかたちわがままりっちゃんイタズラカンセツ違いクーラーの誘惑セロリ -律side-セロリ -澪side-ノスタルジアハイウェイバカ澪!パイナップルヒバリのこころフリッカージャブボクノートボタン付けポットの精メ律ーさんラブレターの結末ランクインランクイン!リッツは肉抜きが苦手仲直りのちゅー傘 続編光原作逆パターン合宿の夜名誉隊長堪能。みおっぱい声変わらないもの夏の日の午後夏の終わりの風物詩夜のなかで夜空のムコウ夜空のムコウ -OTHER STORY-夢ノカケラ天体観測奏寂しがりやの澪幼いこころ手日食は見れなかったけど書いてみた母の日澪のキャベツ克服大作戦!澪の逆襲澪律同棲片道切符生きるのがつらい祭りのあと私に彼氏出来たら10000円な!私律空に架かるカチューシャ空の下で窓の外には -律澪編-笑顔の裏側で終わるものと残るもの絆-きずな-虹が消えた日2運命雨と親友雨の夜に雨の日の優しさ髪の長い男の子魔女旅に出る2人の時間 +唯 唯 ”それでこそ、りっちゃんだよ!” りっちゃんと唯がメインで登場する短編SSです。 けいおん!の主人公である唯。 アニメでは、りっちゃんと息の合ったボケを披露してくれています。 おてんばな二人の悪ノリ展開をお楽しみ下さい。 ○○肉番付ある秋の日このドアを開けてくださいせんのう!せんぷーき!りっちゃーん、錬金術やらない?タルタルソース唯攻め最高のリーダー窓の外には -律唯編- +紬 紬 ”りっちゃんの代わりはいません!” りっちゃんと紬がメインで登場する短編SSです。 普段、澪や唯の陰に隠れてりっちゃんとの絡みがあまり 見られないムギ。ちょっと感覚のズレたお嬢様ですが、 りっちゃんに負けず劣らずステキな女の子です。 りっちゃんとの心温まるお話をお楽しみ下さい。 ★◆普通の女子高生 ◆罪作りっちゃん ★家出少女 ふわふわティータイムキミノコエコンビニ事件夕暮れ時に家出少女律とムギの冬の日律とムギの冬の日2普通の女子高生罪作りっちゃん +梓 梓 ”あの人は、いい加減で大雑把だからパス、かな?” りっちゃんと梓がメインで登場する短編SSです。 りっちゃんの唯一の後輩あずにゃん。 練習熱心で頑固な一面もあり、りっちゃんとは 相容れない部分もあるようですが…? ちょっと大人なりっちゃんと、可愛いあずにゃんの エピソードをお楽しみ下さい。 ★◆音楽と仲間 ◆秘密のレッスン 60年後の君は8月22日Mizumaki!Girlsgoldenmelody「また合宿!」if 深夜の練習相手がもし律だったらある日の部活お見舞いレッドカードサマーバケーションポケモン仲間先輩後輩希望の唄律vs2号恋する気持ち猫と飼い主秘密のレッスン透明少女音楽と仲間 +聡 聡 ”姉ちゃーん、まだー?” りっちゃんと聡がメインで登場する短編SSです。 最終話に登場し、隊員達の羨望の的となったりっちゃんの弟。 学校や部活動では見られないお姉さんなりっちゃんと、 なんだかんだでお姉ちゃんっ子な聡との、暖かな 姉弟愛をお楽しみ下さい。 ある日の田井中家うらやましい弟お前にゃ渡さねーよ!きょうだい喧嘩どらいぶ!ぶらこん!よくある事件りっちゃん2号成長記録ギャップ萌えダメ!ゼッタイ!勘違いりっちゃん姉の呼び方姉の秘密当たり所役得爆走姉弟リッツ&聡爪きりっちゃん田井中聡の苦悩男の子だもん見ちゃいました +和 和 ”ちょっと、律!講堂の使用申請書、また出してないでしょ!” りっちゃんと和がメインで登場する短編SSです。 軽音部メンバー、唯の幼馴染である和。 生徒会に所属しており、部活動関係の書類の提出をよく忘れてしまう 軽音部部長のりっちゃんには手を焼いているようです。 「友達の友達」な関係から徐々に親密になっていく二人のエピソードをお楽しみください。 ある日の出来事ある日の出来事0お母さんと旦那さんきょういん!のどかさんといっしょファンは大切に下校中提出書類最初の人 +さわ子 さわ子 ”でないと、りっちゃんは…心が荒んで、食べきれもしない牛丼の特盛を頼んで、 そしてヤケになり、ヘビメタの道を突き進んで突き進んで…もう、戻れなくなっちゃう…。” りっちゃんとさわ子がメインで登場する短編SSです。 桜高軽音部の顧問であるさわちゃん。 りっちゃんに弱みを握られて無理やり顧問にさせられたハズなのに、 気付いたらすっかり部活(ティータイム)を楽しんでます。 りっちゃんに「さわちゃん」なんて呼ばれても怒らないのは、りっちゃんへの信頼の証! そんな二人のエピソードをお楽しみ下さい。 ベテラン女優律「私がドMで!」漁夫の利さわちゃん +その他 その他 上の分類のどれにも属さないSSを置いています。 GTRしないの?冗談と書いて本気と読む唯×和幼子の宝物超能力者か +短編-俺律 短編-俺律 りっちゃんは俺の嫁、俺の姉、俺の妹、俺の… 隊員達の妄想の数だけ、りっちゃんはいます。 隊員達とりっちゃんの甘甘エピソード、はたまた 何気ない日常のワンシーンなど、りっちゃんとの一時を お楽しみ下さい。 ★夏祭り ★俺と律 ◆寝たふりっちゃん DTAで勝手にエロ動画を削除するりっちゃんHEROHR前の一コマI'm so HappyWake upしてください…この鈍感男!あれ・・・律の靴だおもいで!お兄様☆お部屋デートこの前、律とカラオケに行ったんだ。ご一緒にポテトはいかがですか?しりとり!せっかくだし、散歩にでも行かないか?とっても可愛いぱっつん!ひとりでできる…もん?まるで兄妹もんえん!やきもちりっちゃんりっちゃんとドラクエ!りっちゃんとパワプロ!りっちゃんとモンハン!りっちゃんと腹筋!りっちゃんスペシャルHOTカレーりっちゃん店員りっちゃん店員2りっちゃん店員3りっちゃん店員4りっぱい!アイスアニメキャラの苦悩カホンと律キ○タマSSコンビニジャムセッションセブンイレブンテスト勉強ハッピーバレンタイン インザホスピタルヒモピザラッシュ時の一コマラブコメの定番二人で旅行俺と律俺と律 続編俺と律 3俺と律4出先帰り君がいた夏呼んでみただけ♪地震夏の定番夏の日夏祭り夏色夕立大根おろし!太陽のKiss奏 -俺律編-寝たふりっちゃん対バン少し遅めのクリスマス幸せそうな顔強がりっちゃん彼女もまた特別な存在律「もう最終回だね。」律「ポテチ食べたい!」律「俺、あのさ…」律って将来詐欺に会いそうだよなー律とデート律に勉強を聞く律メイド律祭り律祭り2律祭り3徹夜の代償恋する瞳は美しい恋と友情恋に落ちる音がした持っていかれた普通の言葉なんだけど最終回を前に月曜日の憂鬱朝帰り柔らかくてあったかい法律について知らない顔空の雫窓の外には -俺律編-笑い上戸りっちゃん聡GJ言わせたい誕生日誰だ今の謎の駅員遅刻のお詫びに閉鎖空間の中で隊員の夢離れたくない雨猫りっちゃん雷の夜 +短編-アニメ補完SS 短編-アニメ補完SS アニメのシーンを補完するSSです。 各話ごとにシーン順で掲載してあります。同シーン別パターンは番号分けの上、並べて掲載してあります。 第01話 第02話 第03話 第04話 第05話 第06話 第07話 第08話 第09話 第10話 第11話 最終話 番外編 +短編-俺俺、津、コピペ改変、ネタetc 短編-俺俺、津、コピペ改変、ネタetc りっちゃん同様、隊員達も楽しい事が大好き! 俺俺詐欺や他作品、テレビ番組、ラジオ、雑誌等のクロスオーバー等 隊員達が繰り広げる、面白くてちょっとシュールな作品達をお楽しみ下さい。 あの人気キャラ、”津”も登場します! ★津のこと 5分律面接編5分律! 199の夢DTA購入後の二人ROCKIN'ON JAPAN!SS産業WAになって踊ろう「す、すごい・・・律・・・と紬が・・・」あこがれ!いちおつ! -さわ子編-いちおつ! -和編-いちおつ! -幼澪編-いちおつ! -律編-いちおつ! -憂編-いちおつ! -梓編-いちおつ! -澪編-いちおつ! -甲子園編-いちおつ! -紬編-いちおつ! -聡編-いちおつ!-唯編-いちおつ! -正月編-お前じゃないぎゃるげー!ぎーたのなく頃にくんれん!しゃしん!しーえむ!それはブルガリアたんじょう!ちっこいサンタとっても可愛い…?どうしてこうなったシリーズなにそれこわい1なにそれこわい2なにそれこわい3なにそれこわい4なにそれこわい5なんとかしなきゃばーちゃ!ぱちもん!みのりつ!らみーんりちゅやさんりっちゃんのザ・クイズショウりっちゃん症候群りつわん!エッチする時は…改オード律澪キャラソン発売クイズマジオネアサン田井中とトナ唯スイカにまつわるちょっと怖い話チキンタツタ復活記念ドラクエ9はまだかメタフィクション?ランチタイムリツえもんリツの奇妙な冒険第3部一方光の速さ創刊号は790円!去年と違う夏唯「そんなのりっちゃんのキャラじゃないよ!」唯&澪 キャラソン発売記念!嗚呼!!桜校軽音部店員「ベース始めるんッスかwww」律の 1乙従姉我等が名誉隊員振り返れば奴がいる放課後シルバーソウル放課後ティータイム TV出演!放課後ティータイムin鬼玉放課後ティータイムのOH!MYRADIO!放課後ティータイムのロックンロール劇場!放課後背景ズ暖かい手月曜日の憂鬱・改東京03コント風歴史は繰り返す津のこと皇帝りっちゃんの憂鬱神々の遊び第一次ポケモン対戦 その1第一次ポケモン対戦 その2第一次ポケモン対戦 その3表裏津賭博覇王伝 澪~大富豪編~軽音戦隊K-ONⅤ違いの分かる文具店闇聡雨あそび駅でのお話魔王5分律 +超短編 超短編 りっちゃんのキャラスレ黎明期には、余りSSは書かれず 隊員達のささやかな妄想がポツリポツリと書き込まれるに留まっていました。 そんな書き込みを埋もれさせておくのは少々もったいないので、 ”超短編”として掲載する事にいたしました。 ボリュームは少なめですが、りっちゃんの魅力は十分に表れています。 いないと分かる大切さじゃれあいっと見せかけて…なぁなぁ見てみもったいないりっちゃん起こし方マニュアルエッチする時は…ドライブオンハイウェイノープランドライブホームパーティの後でメイクアップ律の妄想不意打ち仕込み卵かけご飯論争無防備起きろ!身長差 +長編 長編 ここには、長編SSを掲載しています。 シリアス、コミカル、パロディ、ファンタジーetc, 読み応えたっぷりのSSをお楽しみ下さい。 ★★★律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 She may get happy.けいおん!クエストゲイナー「こっちにはボーカルマイクがあぁぁぁぁぁるッ!」君が私で私が君で唯「バイハザ!」律「この体が壊れても、死んでもかまわない」律「最後の演奏だ。おもいっきりやるぞ!」律「私は桜高校軽音部部長、田井中律だ!」律(私じゃ駄目、なのか…!?)監督「4、3…」唯「とりあえず軽音部って所に入ってみました!」笹の葉嬉遊曲 +他スレ 他スレ ここでは、他のスレに掲載されたSSを転載しています。 隊員以外が書いた、様々なSSをご覧ください。 こちらにSSを転載する際には、作者の許可を得た上での転載をお願いします。 +無題 無題 ここには、タイトルのないSSがおかれています。 是非、隊員のセンスを持って、素敵なタイトルを付けてください。 なお、タイトルのつけられたSSは、カテゴリごとに分類し、掲載します。 86-12486-12886-15086-27786-27986-39786-40086-42786-45486-48186-49186-59586-60486-66686-67586-71186-7286-74386-80787-84788-57388-57488-696 挿絵のあるSS一覧 SS/長編/律「やっぱ軽音部は最高だぜ!」 SS/短編-俺律/寝たふりっちゃん SS/短編-けいおん!メンバー/紬/罪作りっちゃん SS/短編-けいおん!メンバー/紬/普通の女子高生 SS/短編-けいおん!メンバー/澪/奏 SS/短編-けいおん!メンバー/澪/これは、過去の話。昔の話。 SS/短編-けいおん!メンバー/梓/音楽と仲間 SS/短編-けいおん!メンバー/梓/秘密のレッスン SS/短編-けいおん!メンバー/唯/りっちゃーん、錬金術やらない? SS/短編-けいおん!メンバー/オールキャラ/律とギター SSをランダムに表示 SSの投票はこちら SSの感想とかあればどうぞ 名前 コメント すべてのコメントを見る 誕生日おめでとおおおおおおおおおおおおおおおおお -- (律かわええ) 2011-08-21 11 23 13 すごすぎる -- (名無しさん) 2010-06-27 17 35 24 「夏祭り」は凄く良い話ですね^^律ちゃんサイコー!! -- (律ちゃんLOVE) 2010-01-05 12 24 13 ところで。……些か時期を失してしまった感もあるやに思われるけれども、やはり。……長編で、仮称「美少女楽隊ケイオンジャー」(笑)!誰か、「決定版」書いて下さい!! -- (紅玉国光) 2009-09-29 20 08 33 ↓に補足の追記。決して、断じてLリCンSョタCンが喜ぶ様なシロモノを期待している訳ではナイので念の為。(紅玉は変質者は嫌いデス) -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 12 28 ふと思ったのだが、りっちゃんは子供の頃、心無い男子連中から、苗字をもじった「いなか」とからかわれたりしていたのではないか……と想像する。で、勿論、怒り心頭に発して男子連中を鉄拳制裁する毎日……。彼女の男言葉で喋る習慣や、豪快?な性格は、その頃に基本が形成されたのではないか?……と勝手に思ってみたりするのだが。どなたか、こんな時期のりっちゃんの物語を上手く(原作と矛盾なく)書いて頂けないものだろうか。切に願う。 -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 09 56 本当に、「けいおん!」が好きな人は、物語は勿論ですが、りっちゃんに限らず登場人物全員が好きで好きでたまらないんですねぇ~。本当に、何と素晴らしい、そして幸せな作品なのでしょうか、「けいおん!」は……。FANとして嬉しく、また誇らしく思います。 -- (紅玉国光) 2009-09-23 17 04 40 俺律はどうしても笑ってしまう いや、いい作品?なんだが -- (名無しさん) 2009-07-23 20 53 42 俺普通に俺律好きだけどなー 逆に俺律以外だと読む気しねえ^p^ -- (名無しさん) 2009-07-19 07 20 36 俺律の痛さは異常wwwwwwwwwwwww -- (名無しさん) 2009-07-17 12 40 14
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第3話 想いの比重 美希が手に取ったのは淡いクリームイエローのニット。 優しい色合いと、女の子らしい可愛らしいデザイン。 (せつなにはちょっと甘過ぎるかしらね?これはどっちかと言うと………) せつなは色白だから、割りと着る選ばない。こう言う色もいいだろうけど、 どちらかと言えば、せつなの顔立ちにはもう少しはっきりした 色の方が映えそうだ。 それか、淡い色ならデザインはシンプルで甘さを抑えたのが…… つらつらと考えていると、いきなり横からキュッと鼻を摘ままれた。 「!!!っちょっと、何よ!」 「もう、美希。今日は誰の服選ぶのか分かってる?」 軽く腕組みしたせつなが憤慨したようにジトっとねめつける。 勿体付けた仕草で、怒ったポーズだけなのは丸分かりだが、 真剣に選んでいたのに文句を言われる筋合いはないと思うのだが…… 「無意識?気付かずやってるなら大したものよ。」 せつなは美希の持っているニットを指差して苦笑する。 どの店でも最初に手に取るのは、パステルカラーの可愛いデザイン。 そして少し悩んだ後、全然違う感じのヤツを選んで私を呼ぶの、 「せつな、これは?」って。 「そんな事ないわよ。現にこれだって……」 美希は、手に取って悩んでいた事を説明するのだが… 「だからね……」 せつなは相変わらず苦笑いで指摘する。 「イマイチだって分かってるなら、わざわざ手に取って思い悩まなくても いいんじゃないの?」 一度や二度なら分かるけど、何回やってるのよ? 「あー……。」 言われてみれば確かにそうなのだが……。 しかし素直に認めるのも癪に触る、と言うか……。 「ま、いいんだけどね。あぁ、でも可愛いわね。これ。」 ブッキーにすごく似合いそう。 ニヤニヤしながらそんな事を言う。 まったく、せつなも扱い辛くなったものだ。 「何よ、憎たらしいんだから。」 「どして?ブッキーに似合いそうだから、そう言っただけじゃない。」 「だーかーらー、何でそこでニヤニヤするのよ。」 「ブッキーがいなくて残念よねー。」 「だからー、そのニヤニヤはね……」 ずっとこんな調子で軽口を叩き合いながら時間が過ぎる。 からかわれてるのに全然腹が立たないのは何故だろう。 せつなは美希が祈里を想っている事を平気でからかってくる。 美希が祈里を大切にしているのを当たり前の事実として。 それが何だかくすぐったい。くすぐったくて、少し嬉しいと感じてしまう。 本当は、告白どころか気持ちを確かめ合う事すらしてないのに。 せつなには、自分達の姿は恋人同士として映っているのだろうか? それとも、仲の良い友人と言うのはこう言うものだと思っているのだろうか。 何にせよ、美希はそんなせつなといると、まるで祈里と公認の恋人同士 のような気分になる。 付き合い始めの頃のせつなは、異世界育ち故の感覚の違いと、 世間知らずから来る天然っぷりで、かなり美希を慌てさせた。 当初は、また手の掛かるのが増えたもんだと頭を抱えたくなったものだ。 しかしながら、もともと頭の出来は良い上に順応性も高かったのだろう。 まだ大分浮世離れしたところがあるとは言え、かなりこちらの常識に追い付いて来た。 付き合い方が分かって来ると、美希にとってせつなはラブとも祈里とも違う、 気楽な関係でいられる事が分かった。 最大級に格好悪い姿を見られてしまったせいもあるだろう。 せつなといると、自分でも驚くほど肩の力が抜ける。 何となく、せつなにはみっともない姿を見せても平気な気がするのだ。 どんな顔を見せても、「美希にはこんな面もある」、 そう受け入れて貰える安心感があった。 勿論、ラブや祈里だって美希の欠点や弱い面を理解してくれてる。 理解した上で、「完璧でありたい」と、努力する美希を姉のように 頼りにしてくれてる。 長い時間を掛けて、培ってきた3人のポジションだ。 ずっとそれで上手くいっていて、それに満足してきた。 相談に乗ったり、頼られたり。時には叱ったり。 でもせつなとの関係には、そう言った『お約束』が一切通用しない。 あくまで対等で、気を使わない、親友。それが今の美希とせつなだ。 「そう言えば、ブッキー今日は合流出来るかも知れないんでしょ?」 「そうね、ちょっとメールでもしてみる。」 リンクルンを手に取ると、美希は初めて既にメールが来ていた事に気付いた。 直ぐに返信を、と思ったが着信時間を見ると一時間近く経っている。 今さら返信しても忙しい中かえって気を使わせるだけかも知れない。 少し迷ってからリンクルンをしまった。 (帰ってからゆっくりメールするか、電話でもいいわよね。) 「ブッキー、今日は無理だって。忙しいみたいよ。」 「そうなの?」 残念ね。そう呟くせつなを見て、美希は祈里が来ない事に 少しホッとしている自分に気付き、戸惑った。 そしてここに祈里がいたらどうだったかな?と、美希は考える。 たぶん、今とは全然違う表情をしているだろう。 もっと緊張して、神経を張り詰めて。 こんな風に、気楽にせつなと笑い合って過ごせはしなかっただろう。 だから……… チクリ…、と針で突いたような罪悪感に似た痛みを感じる。 せつなに指摘されたように、いつも美希は心のどこかで祈里の事を考えてる。 そして、今日は無意識にそれを忘れようとしていたから。 今朝、美希が待ち合わせ場所に行くとせつなはもう待っていた。 彼女は美希に気付かずメールを打っていた。その顔には柔らかな微笑みが 浮かび、相手はラブだろうと自然に想像出来た。 足音を忍ばせ、そっと後ろからリンクルンを覗き込む。 せつながビクッと振り向く。 「もう!脅かさないでよ、美希!」、そう言うせつなの顔が微かに 紅潮していた。メールを見られたかと焦ったのだろう。 美希に見えたのは、恐らく文末に付け加えたであろう一言だけ。 『私も大好きよ。』 からかってやろうと覗きこんだけど、やっぱり止めた。 何だか、自分が虚しくなりそうだったから。 メールを打ってたせつなの、少しはにかんだ微笑み。 彼女はきっと同じ表情で、そして少し頬を染めながらも 真っ直ぐにラブを見つめて同じ台詞をいつも言っているのだろう。 『私も大好きよ。』 正直、羨ましさに気が遠くなりそうだった。 自分が祈里にそんな風に言われる日なんて来るのだろうか、と。 せつなと別れた後、帰る道すがら祈里にメールした。 祈里が来られなくて残念だった事。 祈里に似合いそうな服を見付けた事。 今度は祈里の服を見に二人で出掛けよう、と締め括った。 家に着くと、シャワーを浴び着替える。 今日は楽しかった。自然と頬が緩む。 リンクルンを見るが、まだ祈里からの返信は無い。 (電話してみよっかな?……でも、まだ手が離せないのかな…?) もう一度、祈里のメールを見直す。 「用事を切り上げられそうにないので、今日は無理みたい。」 一行だけの、絵文字一つ無い素っ気ないとも見えるメール。 少し、祈里らしくないように思えてきた。 合流するかも、と言っておきながら行けなかった。 その事に対して、いつもの祈里なら「ごめんなさい」の一言くらい 入れそうなものだ。 それに、せつなの事に全く触れてない。 せつなには祈里からメールは入らなかった。 それなら、「せつなちゃんによろしく」くらいは書いても良さそうなものなのに。 (……アタシ、ひょっとして、マズった?) そもそも、今日の祈里の用事は何だったのか具体的には聞いてない。 家の事、と言ってたから病院の手伝いかと思っていたけど…。 もしかしたら、用事なんてなかったのでは? でも、なんで?理由が分からない……… 美希は自嘲気味な笑みを漏らす。 既に癖になっている。 祈里の何気無い言葉。ふとした拍子に見せる表情。 その中にある祈里の心を深読みしようとするのが。 祈里が何を言いたがっているのか。 何を求めているのか。 言葉に出来ない言葉。表に現せない思い。 それを砂利の中から砂金を選り分けるように、掬い上げてきた。 祈里の求める美希でいるために。 いつだって、完璧でいるために。 (……考え過ぎよ…ね。) ついつい、どんな何気無い素振りにも意味があるのではないかと 身構えてしまう。 確かに、祈里らしくないメールかも。 でも、考えようによっては忙しい中合間を見付けて送ったから 簡単な文面になってしまった。 本当なら、最初から行けないと言ってたんだから、そのままにしておいても 良いだろう。 それを律儀に再度メールを送ってくるのだから、祈里の気遣いと 取れなくもない。 むしろ、その方が自然だろう。 美希は溜め息を付く。 ふわふわとした心地好い疲れに浸っていた心身が、 一気に現実の重力に引き倒される。 リンクルンを眺めながら、美希はイライラしている自分を自覚した。 このメール、多分祈里は美希に何かを読み取って貰いたがっている。 間違いない、と思う。今まで伊達に神経を使って来た訳じゃないから。 でも、美希はそこで考えるのをやめた。 再度、メールを打とうとしていた指を止め、無造作にリンクルンを 放り出す。 (言いたい事があるなら、ハッキリ言えばいい。) 今日、一緒にいたのがせつなでなかったら、美希はメールに一時間も 気付かずにいること自体なかったろう。 直ぐに電話なりメールなりをして、祈里の真意を探り、求める答えを 与えられるように必死になっていただろう。 でも、今日は楽しかったから。 何も考えず他愛ないお喋りをして、ふざけ合って。 疲れる事を考えたくなかったのだ。 祈里が好き。ずっと好きで、祈里の望みを叶えてあげらるのが嬉しかった。 笑顔が見られるだけでよかった。 自分にだけ見せてくれる我が儘を可愛いと思ってた。 それでも……… いつの間にか、ピンと張り詰めていたはずの心の端っこが 撚れてくたびれていた。 ぷくりと血の玉が膨れる程度の傷。意識しなければ痛みを 忘れている時間の方が長い。 けど、傷の中に残った棘は柔らかな血肉を化膿させ、気付けば ぶよぶよとふやけた皮膚の下に膿を溜め込んでいた。 (ねぇ、祈里。アタシ今まで随分頑張ったと思うの。) あなたは、アタシに何をしてくれた? アタシのために、何かを頑張ってくれた事、ある? 祈里が好き。こんな風に思いたくない。 祈里に見返りを求めた事なんてなかった。 好きで与えてただけ。祈里のサインに上手く答えられるのが 幸せだったはずなのに。 どうして、アタシばっかり…… 胸の傷が疼く。熱を持ち、ほんの少しの刺激で血膿が溢れ出しそうだ。 綺麗に洗い流しても、そこには醜く引きつった傷痕が残るだろう。 せつななら、こんな事しない。 言葉はまるで、相手の気持ちを確かめる謎掛けのよう。 仕草の一つ一つに、まるでバレエのマイムのように意味を持たせる。 (もう、いいじゃない。もう、何も考えたくない。) せつなはラブへの愛情を隠さない。 唇から、指先から、まばたきする瞳から、ふとした瞬間に ラブへの想いが零れるのが見える。 せつなの中はラブで溢れている。 曇りの無い、無垢な想いを躊躇いもなくラブに捧げている。 羨んだって仕方ない。 彼女達は彼女達。自分達は自分達だ。 ずっとそうしてきた。誰のせいでもない。 ねぇ、祈里。またアタシが考えなきゃいけないの? アタシが何も気づかなかったら、あなたどうする? アタシ、もう止めるかもよ?ちょっと、疲れちゃったのよね。 好きよ、祈里。でもね……。 あなたが欲しいモノと、アタシが欲しいモノは、違ってきちゃったのかも。 アタシが何も言わなくなったら、あなたはどうするの? その日、美希は結局それ以上メールも電話もしなかった。 そして、祈里からの返信も朝になっても来なかった。 第4話 想いの外側へ続く
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『それでね、今日は一晩、飲み明かしちゃおうかなーって』 「はいはい。わかったわ、ママ。あんまり飲みすぎないようにね――――うん、ちゃんと戸締りもしっかりしとくから、心配 しないで――――それじゃ、おやすみなさい」 そう言って、美希は電話を切る。そして、ベッドの上に座っていたせつなを見て、 「久しぶりに会った友達と飲んでるから、ママ、今日は帰らないんだって」 「・・・・・・そう」 頷いて、軽く目を伏せるせつなに、彼女は言う。 「帰ってもいいのよ? 別に、あたしは――――」 「ううん、平気」 ゆっくりと頭を振って、せつなは立ち上がった。 「シャワー、借りるわね」 「ええ、どうぞ――――着替え、持っていくから」 ありがとう。美希の方を見ようとしないまま、彼女は部屋を出て行く。パタン、と音を立てて閉まるドア。せつながいなく なった途端、急に部屋が寒くなったような気がして、美希はわずかに体を震わせる。それは多分に、ほんの数分前まで、 彼女を抱きしめていたせいだろうけれど。 平気、か。 せつなの台詞を思い出して、美希は小さく唇を噛む。 平気って、何が? 彼女の台詞に、そう聞き返せなかった自分。その弱さに、彼女は苦悩する。 シトシトシト 聞こえてくる音に、カーテンをそっと開ければ、いつからだろう、雨が降り出していて。 シトシトシト 小さな雨音が、やけに大きく聞こえるのは、この部屋の静寂のせいだろうか。自分しか、いない、この部屋。 「せつな」 窓の側で、呟いてみる。ガラスが曇って、外の景色が白く濁る。一つ、溜息。また白くなる、風景。 やっぱり、寒い、な。ああ、せつなの着替え、浴室に持っていってあげないと。 思いながらも、美希は、動けぬまま。 そっと外を眺め続ける。 雨に煙る、街並みを、眺め続ける。 Eas of Evanescence X せつなと交代で、シャワーを浴びる。いつもは快適なこの時間が、今は例えようも無く苦しい。 肌を流れる雫。ぬくもりが、けれど、感じられない。心が冷たくなってしまっているからだろうか。 それでも、永遠にそうしているわけにもいかず。美希はノズルを回し、シャワーを止めた。 脱衣所で、体を拭こうとして、ふと、鏡に気付く。完璧なスタイルを保つために置いた、姿見に映るのは、いつものように 完璧な自分の体。 真っ白の肌は、ほのかに赤みを帯びている。プルンと張って、ツンと上がった胸。くびれのはっきりとわかる腰。スラリ と細く長い足。努力に努力を重ねて、築き上げた自慢の体だ。 けれど、それはもう一つの意味を持っている。 イースに――――せつなに、抱かれた体と云う意味。 この体に、たった一箇所以外、彼女に触れられていないところはない。それほどまでに、激しく求められた。思い出す だけで、頬が赤くなる。胸が、せつなくなる。 声を出さずにいることは、本当に辛かった。愛に気付いてからは、なおさらに。それでも、耐え切ったのは、愛する故か。 その彼女の言葉。 「美希のことも、好きなの」 思い出しながら、美希はそっと胸に手を当てる。硬くなった蕾の向こう、体の奥で、激しく脈打つ鼓動。歓喜に、震えて いるのだ、心臓が。 パジャマを着て部屋に戻ると、すでに電気は消えていた。廊下から差し込む光で、美希はせつなを探す。が、すぐに 気付く。ベッドの布団が、膨らんでいる。誰かがその中に、いる。 廊下の電気を消して、薄暗闇の中を、そっとベッドに近付く。 かけ布団をそっと上げて、ゆっくりと潜り込むと、暖かなぬくもりがあって。 シトシトシトシト 雨の音が響く。ただ、その音だけが、響いている。 「――――せつな」 小さく、美希は呼びかける。 横になっていた彼女が、こちらを見て。 「――――美希」 そう呼び返してくる。 それが、きっかけだった。 抱きしめる。抱きしめる。 狂おしい程の想いを込めて、彼女の体を抱きしめる。 絞るように、強く、強く。 一つにならんとせんばかりに、激しく強く。 きっと、せつなは痛いと感じている。その自覚が、美希にはある。けれど、彼女は何も言わない。ただされるがままに なっている。美希の背中に手を回し、自らも体を近付けようとする。 それが嬉しくて。 それが、悲しくて。 「せつな」 「美希」 ようやく彼女の体を解放した美希は、自分の下になったせつなの顔を見ながら、そっと呼びかける。やはり苦しかった のだろう、少しだけ息を荒げていた彼女は、それでもしっかりと応える。 ぶつかる視線。美希は、せつなの手に、自分の手を重ねて。強く握り締める。 まるで、逃げられないようにしているかのように。 そんな彼女の行為を、せつなはとがめようとはしなかった。黙って、同じように、握り締める。 まるで、逃げないよ、と言うかのように。 そのまま、見つめ合う、二人。美希の長い髪が、せつなの頬をくすぐる。サラサラと。 やがて近付く、少女達の距離。 美希は、せつなに――――イースに触れさせていなかった、たった一箇所で、彼女に触れる。 唇を、唇に。 最初は、ついばむように、ただ重ね合わせて。 やがて、美希の舌がせつなの唇に触れる。彼女の前歯を、ノックする。 そして絡み合う、二人の舌。まるで生き物のように、激しく互いを求め合う。 淫らな音が、部屋に響く。夢中になって、美希はせつなを味わう。 どれだけしても、足りないと感じてしまう。もっと、もっとと思う。 けれども―――― ゆっくりと、彼女は顔を離す。闇に慣れた目で見れば、せつなの顔は赤く染まっているのがわかる。多分それは、自分 もだろう。 「ファーストキスよ」 「え?」 「あたしの、初めてのキス――――せつなに、あげたから」 美希のことを何度も犯しながら、イースは、彼女にキスをしたことはなかった。だから、体の全てを触れられ、嬲られた けれど、唇だけは純潔を守っていたのだ。 その純潔も、今、失われたけれど。 「美希――――」 困ったように、目をそらすせつなに、美希は小さく笑う。 「わかってる。せつなは、違うんでしょ?」 無言は、肯定。多分、彼女のファーストキスは、ラブに捧げたのだろう。 「いいのよ。気にしないで」 もう一度、唇に軽くキスをして、すぐに離れる。 「けど、覚えておいて。あたしのファーストキスの相手は、あなただっていうことを」 「美希――――」 何故か泣きそうな顔をするせつなに、美希は小さく笑って。 彼女のパジャマのボタンに、手をかける。 一つ、二つとゆっくりと外していく。 せつなは、何も言わない。 雨の音に混じるのは、彼女の呼吸。 全てのボタンを外して、そっと前を広げる。 横になっていても形の崩れない胸に、美希は手を当てる。 ひんやりとした空気の中で、せつなの体は火傷しそうな程に熱くて。 「美希」 彼女の唇から零れる、自分の名前。 美希は、目を閉じて微笑む。声を出さずに、小さく微笑む。彼女の胸に置いた手は、動かない。触れたまま、ただ、 そのぬくもりを感じるだけ。 「美希」 もう一度、呼ばれる。 その声音の中に、覚悟を感じて。 美希はまた、微笑む。 そして、そっと彼女の胸に顔を埋めた。 「――――美希?」 何もしようとしない彼女に、またせつなは名前を呼ぶ。今度は、問いかけるように。 それに、美希は、顔を埋めたまま応える。 「ありがと、せつな――――ラブに話すの、辛かったでしょ?」 体から伝わってくる、動揺。彼女が息を呑むのが、わかった。 泊まってくると言ってある。そう、彼女は言った。 けれど、それだけじゃないと、美希にはわかった。 せつなはきっと、ラブに話した。 自分や祈里とのことを、全て話した。 だからこそ、せつなは、ここにいる。 あたしの部屋で、あたしに抱かれている。肌を、重ねている。 多分それは、せつなの優しさ。あるいは贖罪。 あたしにしたひどいこと、その埋め合わせをする為に、彼女はここにいる。 そして。 それを、ラブは知っているだろう。 知っていて、送り出したのだろう。 それが、ラブの優しさ。 きっと今頃、ラブは耐えている。 自分の隣に、せつながいないことの苦しさに、耐えている。 そのせつなが、あたしという幼馴染に抱かれていることの苦しさに、耐えている。 耐えながら、苦しんでいる。 泣いている、かもしれない。 せつなはそれを、知っている。 知っていて、ここにいる。 多分それは、全てを精算する為に。 もう一度、最初から、始める為に。 ラブとの、関係を。 愛を。 もう一度、最初から。 我侭よね、せつなって。 心の中で、美希は呟く。 これが贖罪になると思っているのだとすれば、これが優しさだと思っているのだとすれば、見当違いも甚だしい。 あたしは、同情なんかされたくない。 あたしは、こんなことを望まない。 あたしは、あたしは―――― けれど。 蒼乃美希という少女は、完璧で。 完璧すぎて。 目の前の少女の心も、幼馴染の少女の心もわかってしまって。 彼女達が、これを優しさだと言うつもりが無いことも。 彼女達が、苦しんで出した結論がこれだということも。 理解、出来てしまって。 だから。 怒れない。 ただ悲しいだけ。 我侭にも、自分勝手にも、なれなかった。 だからといって、全てを悟ったかのように、自分の欲望を抑えることも出来なかった。 結果として、半端なまま。 最後まで達して、親友を傷付けることも。 逆に、全く触れずに、我慢することも。 彼女は、出来なかった。 満たされずに傷付くのは、美希自身なのに。 キスは、素敵だった。とろけそうになった。 せつなの体は、とても暖かくて、柔らかくて、もっともっと触れていたいと思った。自分の素肌を、重ね合わせたいと 思った。 けれども、もう、おしまい。 これ以上は、出来ない。 ううん。耐えられない。 あたしが。 「――――っ」 ギュッ、とせつなのパジャマを握る。顔を、せつなの胸に押し当てる。 それでもボロボロと瞳から涙が零れる。 噛んだ唇から、嗚咽が漏れる。 「美希・・・・・・」 「――――ッ――――ック――――クッ、ヒック――――」 止まらない。止められない。 ただ、激しく。胸の奥から、形にならない想いがこみあげてきて。 「――――ッック、アアァァァァン――――」 とうとう、抑えきれずに、大声を上げてしまう。 まるで赤ん坊のように、せつなの胸にすがりついて、大粒の涙を流しながら、叫ぶように、泣く。 「ウァァァァァ――――アァァァァッ――――アァァァァッン」 ただ、泣き続ける。 「ウァァァァァン――――ック――――アァァァァァ」 ただ、ただ、泣き続ける。 「アァァァァァ、ウァ、ウァ、ウァァァァンッ」 泣き続ける。せつなの胸は、美希の零した涙でビショ濡れになっている。 「美希――――」 せつなの声は、微かに震えている。けれど、せつなは唇を噛む。 泣くな、私。ここで泣くのは――――許されない。 「アァァァァァッ」 「美希――――」 泣きじゃくる彼女の頭に手を置いて、せつなは。 自分の胸に引き寄せながら、そっと撫でる。 それが――――それだけが、彼女の為に出来ることだったから。 やがて、泣き疲れたのだろう。 美希は、寝息を立て始める。 それを聞いても、なお、せつなは美希の頭を撫で続ける。 逆の手で、彼女の手を強く、握り締めながら。 チュン チュン 鳥のさえずりが聞こえて、美希は目を覚ました。 だが、すぐには起き上がらない。聞こえてくるのは、衣擦れの音。 隣にあった筈の、ぬくもりがもう、ない。繋いでいた手も、今は外されて。 行ってしまうんだ。 思うと、胸が苦しい。けれど、それをねじ伏せる。 これでいいんだ。これで。 「美希」 着替えが終わったのだろう。彼女が、こちらを向く気配。 そして、遠慮がちに、小さな声で囁く。 「私、もう、行くわ」 ええ。ありがとう。昨日は、一緒にいてくれて。 「本当に、ごめんなさい――――それから、ありがとう。私の我侭を、受け入れてくれて」 いいのよ。その我侭も含めて、好きになっちゃったんだから。 惚れた弱み、っていうのかしら。 「我侭ついでに言うけれど――――もしも、許してもらえるなら」 許すも何もないわ。あなたはいつだって、あたしの大好きな人だから。 たとえあなたが、あたしを一番に想っていなくても。 「これからも、仲良くして欲しいの――――都合のいい、お願いだけれど」 本当にね。 けれど、いいわ。都合のいい女になってあげる。 だってあたし、あなたと一緒にいたいもの。せつなと一緒に、生きていたいもの。 一生忘れないから。 好きって言ってくれたこと。 絶対に――――絶対に、忘れない。 この気持ちは、もう、表に出さないけれど、一生、忘れない。 「それじゃ、行くわね――――さよなら」 ええ。また、会いましょう。 その時は、大切な親友として。 大事な、仲間として。 また会いましょう。 せつなの言葉に、美希は起き上がることも、声を返すこともしなかった。 ただ、心の中で返しただけ。 横になり、目を閉じたままの美希に、せつなは背を向けて。 やがて、パタン。 扉が閉まる。 それで、おしまい。 せつなは出て行った。 残された美希の、きつく閉じられた目から、一筋。 涙が流れて、それで美希の恋は、愛は。 おしまい、だった。 それでいいと、美希は思う。 これが、ハッピーエンドなんだ、と。 だから少しだけ、もう少しだけ、彼女は泣く。 これは嬉し泣きなのと、自分に言い聞かせながら。 涙を流したのだった。 ――――epilogue―――― 「おかえり、せつな」 「――――ラブ」 家に辿り着いたせつなを、門の前で迎えたのは、ラブだった。 まだ早朝と言える時間。今日は休みだとは言え、こんな時間に起きているとは思わなかった。 いや――――彼女の眼の下には、わずかに隈が出来ている。 眠れなかった、のだろう。そして、ここで待っていたのだろう。せつなが、帰ってくるのを。 「ラブ・・・・・・」 「なんか冷えるね。昨日の夜の雨のせいかな。ほら、せつな、早く入らないと、風邪ひいちゃうよ」 微笑みながら、せつなを迎え入れようとするラブの姿に、彼女は何も言えずに俯く。 私は――――こんなにも、たくさんの人を傷付けて――――そのくせ、エゴを押し通そうとして、一人、幸せになろうと して―――― そんな彼女の表情の変化に、気付いたのだろう。 不意に、ラブはせつなの手を掴む。 「せつな」 「――――ラブ」 驚く彼女に、ラブは、微笑む。 「せつな――――笑って? ううん、笑おう。一緒に、笑お?」 あ、とせつなは、息を呑む。 ラブの微笑みは、いつもと違う。どこか無理を感じさせるもの。 それはきっと、辛いから。心が痛いから。 誰かのことを、彼女は思っている。思って、心を痛めている。 けれど、それでも彼女は笑う。 せつなという少女を、その苦しみを、全て受け止める為に。 笑う。 「・・・・・・ラブ」 名を、呼んで。 せつなは、笑った。 笑うことが、正しいことだと。 それが、傷付けた全ての人に対する、贖罪になるのだと、そう思いながら。 彼女は、目をうるませたまま、笑った。 「せつな。おかえりなさい。アタシ達の家に」 「――――ただいま。ラブ」